マルク・ブロック

マルク・ブロック（Marc Léopold Benjamin Bloch, 1886年7月6日 - 1944年6月16日）は、20世紀を代表するフランスの歴史学者であり、アナール学派の創設に大きく貢献した人物です。彼の学問的な業績は、歴史学の研究方法に大きな変革をもたらし、社会経済史や比較史といった新たな分野を切り開きました。

生涯と学問的背景

ブロックは、古代史学者であるギュスターヴ・ブロックの息子として、リヨンで生まれました。幼い頃から学問的な環境に育ち、歴史への関心を深めていきました。各地の高校で教鞭を執った後、1919年にストラスブール大学の中世史教授に就任し、その翌年には『王と農奴』で文学博士号を取得しました。

アナール学派の創設

1929年、ブロックはリュシアン・フェーヴルとともに『社会経済史年報』（後の『アナール』）を創刊しました。この雑誌は、従来の政治史や事件史に偏っていた歴史学に対して、社会構造や経済活動、人々のメンタリティといった多角的な視点を取り入れることを提唱し、大きな影響を与えました。アナール学派は、歴史学に社会科学的な手法を導入し、歴史をより包括的に理解しようとする新しい潮流を作り出しました。

研究内容

ブロックの研究は、中世社会の構造や経済活動に焦点を当てていました。彼は、封建社会の成立過程や農村社会の変遷、貨幣経済の発展などを、詳細な史料分析と社会学的な視点を用いて解明しました。特に、『封建社会』は彼の代表作として知られ、中世史研究における重要な文献となっています。また、比較史研究にも力を入れ、『比較史の方法』では、異なる社会や文化を比較することによって、歴史の普遍的な法則を見出すことを試みました。

第二次世界大戦とレジスタンス運動

第二次世界大戦が勃発すると、ブロックは53歳という高齢にもかかわらず、フランス軍に従軍しました。フランスがドイツに降伏した後も、彼はレジスタンス運動に参加し、占領下のフランスで抵抗活動を続けました。しかし、1944年、彼は故郷のリヨンでドイツ軍に捕らえられ、銃殺刑に処せられました。彼の死は、フランスの知識人社会に大きな衝撃を与え、その勇気ある行動は、後世に語り継がれています。

日本との関係

ブロックは、日本の歴史学者である朝河貫一とも書簡を交わし、交流があったことが知られています。これは、彼が西洋だけでなく、東洋の歴史にも関心を持っていたことを示しています。

主要な著作

ブロックの著作は、歴史学だけでなく、社会学や経済学など、幅広い分野の研究者に影響を与えています。彼の主要な著作には、以下のようなものがあります。

『王と農奴』
『封建社会』
『奇妙な敗北』
『歴史のための弁明』
『比較史の方法』
『西欧中世の自然経済と貨幣経済』
* 『王の奇跡』

これらの著作は、彼の多岐にわたる関心と深い洞察力を示しており、現代においても歴史学研究における重要な参考文献となっています。

マルク・ブロックの遺産

マルク・ブロックは、アナール学派の創始者として、その後の歴史学研究に大きな影響を与えました。彼の社会経済史的な視点や比較史的な方法は、現代の歴史研究においても重要な要素となっています。また、彼の著作は、歴史学だけでなく、社会科学全般にわたる分野の研究者に広く読まれており、その影響力は今日でも衰えていません。彼の生涯と業績は、学問的な貢献だけでなく、困難な時代を生き抜いた知識人の勇気と信念を示すものとして、後世に語り継がれています。

関連文献として、キャロル・フィンク著『マルク・ブロック　歴史のなかの生涯』や二宮宏之著『マルク・ブロックを読む』などが挙げられます。

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