マルチパス

マルチパスとは

マルチパスとは、本来「複数の経路」を意味する言葉ですが、使用される分野によって具体的な意味が異なります。

無線通信におけるマルチパス

無線通信の分野では、電波が空間を伝播する際に、山や建物などの障害物によって反射や回折が起こり、複数の経路を通って受信機に届く現象を指します。この現象は「マルチパスプロパゲーション」とも呼ばれ、漢字では「多重波伝播」と表記されます。

マルチパスによる影響

マルチパスによって、受信信号には不要な干渉や位相のずれが生じ、これが「フェージング」と呼ばれる現象を引き起こします。具体的には、ファクシミリやテレビ放送では、映像の乱れや二重像（ゴースト）が発生し、FMラジオ放送では音声にノイズが混入するなどの影響が出ます。

マルチパス対策

マルチパスによる影響を軽減するために、位相差給電アンテナなどの対策が用いられます。また、デジタル無線通信においては、等化器やOFDM方式、レイク受信機などの技術が利用されています。

短波通信におけるマルチパス

短波を用いた無線通信では、電波が地球の表面を最短距離で結ぶ経路（ショート・パス）と、地球の裏側を通る経路（ロング・パス）の2つ以上の経路を通って伝播することがあります。これにより、受信点ではエコーのような現象が発生することがあります。また、送信点と受信点が互いに対蹠点にある場合、どの方位からでも同じ距離の無数の伝播経路が存在するため、比較的安定した通信が可能になる「対蹠点効果」という現象も発生します。

統計モデル

マルチパス環境下における受信電界の変動は、レイリー分布やライス分布などの確率モデルで表されます。レイリー分布に従うフェージングは「レイリーフェージング」、強い見通し線を含む場合は「ライスフェージング」と呼ばれます。

コンピュータネットワークにおけるマルチパス

コンピュータネットワークの分野では、複数の経路を同時に使用して通信を行う技術を指します。これにより、通信速度の向上や、冗長性を持たせて通信障害への耐性を高めることができます。

マルチパスの実現方法

マルチパスは、ネットワークの様々な層で実現可能です。例えば、TCPレベルでのマルチパス（マルチパスTCP）、複数のルータを使用する方法、複数の回線に同時接続できるルータを使用する方法、複数のネットワークカードを1台のPCに搭載する方法などがあります。

マルチパスTCP

TCPを使ったマルチパス技術は特に「マルチパスTCP」（MPTCP）と呼ばれ、2013年にIETFで仕様が公開されました。現在、Linuxカーネル、FreeBSD、iOS、macOSなどのOSやシステムに実装されています。

複数のルータや回線を利用したマルチパス

複数のルータを設置したり、複数の回線に同時接続できるルータを使用することで、ネットワークのトラフィックを分散させ、より効率的な通信を実現することができます。

まとめ

マルチパスは、無線通信とコンピュータネットワークという異なる分野で使われる用語でありながら、どちらも複数の経路を利用する、という共通の概念を持っています。無線通信においては電波の伝播特性による影響を指し、コンピュータネットワークにおいては意図的な通信経路の多重化を指します。それぞれの分野において、マルチパスは重要な課題であり、様々な技術や対策が開発されています。

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