マルヤム (クルアーン)

クルアーン第19章『マルヤム』：マリアとイエスの物語、そして神の一性

『マルヤム』は、クルアーン（コーラン）を構成する114の章（スーラ）のうちの第19章で、98の節（アーヤ）から成ります。本章のタイトルにもなっているマルヤムは、アラビア語でマリアを意味します。本章は、イエス・キリスト（イーサー）の母であるマリアを主に扱い、その生涯やイエスの誕生、そして神の一性を深く探求しています。

章の構成と内容

本章は、神秘文字（ムカタア）である「カーフ・ハー・ヤー・アイン・サード」で始まり、その後は大きく三つのパートに分けられます。

第一部（2-40節）：ザカリア（ザカリア）とその息子ヨハネ（ヤフヤー）、マリアとその息子イエス（イーサー）の誕生物語が中心です。イエスの神性について主張するキリスト教徒たちの考え方を否定し、イエスの本質を明らかにする記述が含まれています。マリアの苦悩と信仰、神からの加護が詳細に描かれています。

第二部（41-65節）：アブラハム（イブラーヒーム）をはじめとする預言者たちの物語が展開されます。それぞれの預言者に対する周囲の反応や預言者の運命、そして神の一性が繰り返し強調されています。偶像崇拝からの離脱や預言者への試練、信仰の大切さがテーマとなっています。

第三部（66-98節）：死後の復活や最後の審判について述べられています。今生と来世、信仰と不信、そして神への裁きが描かれ、読者に深い省察を促しています。

韻律と表現

『マルヤム』は、アラビア語原文において、章の内容に合わせて変化する巧妙な韻律を用いています。ザカリアとヨハネ、マリアとイエスの物語では特定の音節を基にした韻が続き、イエスの本質に関する部分では異なる韻律に変化します。これは、話題の移り変わりや読者の感情に影響を与える効果的なテクニックと考えられています。

マリア（マルヤム）の重要性

クルアーンにおいて名前が明示的に言及される唯一の女性が、この章の主役であるマリアです。「ハールーンの姉」という称号が与えられ、イエスは「マルヤムの息子」として紹介されます。これは、家族の男性の家系で個人を識別する文化において、マリアが母であることを強調する表現であり、イエスの奇跡的な誕生を際立たせています。マリアの苦悩と信仰、神への揺るぎない信頼が、詳細に描写されています。フェミニスト的な観点からも、マリアの物語は重要な意味を持つと解釈されています。マリアと天使ジブリール（ガブリエル）のやりとりは、当時のジェンダー役割を反映しているとも言われています。

預言者たちへの言及

本章では、アブラハム、イサク、ヤコブ、モーセ、アロン、イスマイル、エノク、アダム、ノアなど、多くの重要な預言者たちが言及されています。これらの預言者たちの物語は、神の一性を強調し、預言に対する様々な反応と結果を示す役割を果たしています。

まとめ

『マルヤム』は、マリアとイエスの物語を通して、神の一性、預言者たちの役割、信仰の大切さ、そして死後の復活や最後の審判といった重要なテーマを扱った、クルアーンの中でも特に重要な章です。その韻律や表現方法も特徴的で、読者に深い感動と教訓を与えてくれます。イスラム教徒にとって、そして聖書研究者にとっても、非常に重要なテキストです。

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