マンガハウス

『マンガハウス』：幻の新人漫画家育成誌

『マンガハウス』は、1985年に花伝社から創刊された漫画雑誌です。フリーライターのさくまあきらが、友人の堀井雄二らと共に立ち上げた花伝社から発行されました。当時、大手漫画雑誌が全盛の中、新人の発掘と育成に特化した独自の路線を目指しました。しかし、創刊からわずか2年、全7号で休刊という短い歴史を終えました。

創刊の背景と特徴

『マンガハウス』は、さくまが愛読していた漫画雑誌『COM』のような、新人漫画家を発掘する雑誌を目指して創刊されました。編集部には、持ち込まれた作品を厳正に審査し、実力が認められた作品のみを掲載するという方針を採用しました。漫画作品だけでなく、新人漫画家向けの漫画基礎講座や読者コーナー、懸賞なども設けられ、読者との交流も重視していました。また、単行本のようなカラーカバー付きで販売され、カバー裏には読者コーナーの作品が掲載されるという、当時としては珍しい試みも行っていました。

しかし、出版コードを取得できなかったため、販売は通信販売と、一部の書店に限定されました。この販売戦略が、売れ行き不振の一因となり、2億円の赤字を抱え、創刊から2年、全7号で休刊となりました。休刊の告知は、読者や投稿者、通販購入者に郵便で伝えられました。その後、同人誌装丁の冊子を引き継いだ『プルプル』が月刊で発行されましたが、これも半年で終了しています。

隔月誌という名目でしたが、実際には予算などの都合で発行間隔が数ヶ月開くこともありました。そのため、号数は「○月号」ではなく「○号」という通巻号数で数えられました。

逸話と内情

当時の漫画界は、週刊少年ジャンプ、週刊少年サンデー、週刊少年マガジンが全盛で、多くの新人漫画家がこれらの雑誌を目指していました。『マンガハウス』には、その育成システムの枠から外れた、いわば「おこぼれ」的な存在が集まったと言われています。

創刊号には、鈴木みそが漫画家としてではなく、花伝社の編集スタッフとして参加していました。また、販売ルートが限られていたことが、売れ行き不振に拍車をかけたとされています。読者コーナーには、「廃刊」などの自虐的なネタが多く投稿されていました。

最も発行間隔が開いたのは2号と3号の間で、約6ヶ月もの期間がありました。2号の次号予告ではその旨が明記され、「全国発売に向けて白夜書房と交渉中」との記述がありましたが、実現には至りませんでした。

創刊当初は、デビューを急がせる方針で、初めての作品でも見所があれば掲載していました。しかし、一度掲載されると満足してしまったり、他誌でデビューしても連載に耐えられなかったり、締め切りを守らない執筆者が続出したため、掲載方針を転換し、「一定期間以上何も描かない執筆者は追放」という厳しい方針を取るようになりました。しかし、追放された後にプロデビューを果たした者もいました。

バックナンバーの販売も行っていましたが、7号発行時点で4号までを絶版とし、社内に在庫のあった1号から3号を送料無料で通販し、それでも売れ残った分は廃棄されました。これは、初期の執筆者との過去を清算するためと、在庫にかかる税金を減らすためでした。

懸賞は、編集部が用意した冊子、掲載作品のオリジナルグッズ、執筆者のサイン色紙などが中心で、応募券はコピーでも可という緩いものでしたが、それでもほぼ全員プレゼントに近い状態でした。中期以降は、サイン色紙のプレゼントを毎号20名と定め、定員割れの場合は次回に繰り越すというルールを設けましたが、実際にペナルティが課せられることはありませんでした。

出版活動以外にも、常連執筆者とともにサイン会を各地で開催しました。しかし、天候に恵まれず、大雨や雪などの悪天候に見舞われることが多かったようです。

一時期、女性執筆者のグラビアや切り抜き形式の付録が掲載されたこともありました。また、末期には、執筆者に同一テーマを与えて競わせる「マンガハウス小賞」という企画を開催。さくまと交流のある漫画雑誌やアニメ雑誌の編集者が審査を行いましたが、休刊となり、計画は途中で終わりました。

休刊後も、さくまは常連執筆者の世話を続けていましたが、賞を受賞したり他誌で掲載され始めると、さくまから離れていく者もいました。さくま自身は「現在も売れ残った掲載者はみな恩を忘れていない」と発言していますが、一方で、さくまの人間性に対する疑問視する意見も少なからず存在します。

『マンガハウス』は、発行規模から考えると、漫画家志望者を大手出版社の編集者やプロ漫画家につなぐという点で、一定の役割を果たしたという評価があります。しかし、さくま自身は本誌の存在を「人生最大の汚点」と語っています。

その後、さくまは同様のコンセプトで『チョコバナナ』を自費出版で創刊しましたが、これも2年で休刊となりました。

主な執筆者・出身作家

なかむら治彦
小野敏洋
新井理恵
こいでたく
中森衣都
菊池晃弘
田巻久雄
荒木仁

『マンガハウス』は短命に終わった雑誌ですが、その特異な存在感と、漫画界に与えた影響は、今もなお語り継がれています。

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