マントヒヒ

マントヒヒ（Papio hamadryas）

マントヒヒは、オナガザル科に属するユニークな霊長類で、ヒヒ属の代表的な種です。主にイエメン、エチオピア、サウジアラビア、ジブチ、スーダン西部、ソマリアに生息しており、広い範囲に分布しています。彼らの特異な外見と行動は、多くの人々に知られていますが、特にオスとメスの違いが顕著です。

形態

マントヒヒの大きさはオスとメスで大きく異なります。オスは体長が70〜80cm、体重は約20kgに達するのに対し、メスは50〜60cm、約10kgの重さです。また、オスの尾の長さは40〜65cmで、メスよりも明らかに大型です。興味深いのは、オスは灰色の体毛を持ち、特に側頭部や肩の体毛が長く伸び、まるでマントのように見えることからその名がついています。一方、メスや幼体は褐色の体毛を持ち、成長してもオスのような特徴を示すことはありません。

顔や臀部には体毛がなく、露出したピンク色の皮膚が目立つほか、尻には特に発達した皮膚のたるみ（尻だこ）があります。これらの特徴が、オスとメスを見分ける手助けとなり、初めてこの種を見たヨーロッパの人々が別種と考えた理由ともなりました。

生態

マントヒヒは通常、草原や岩場に生息し、小規模な群れで行動します。昼間は1頭のオスと数頭のメス、そして幼獣が一緒に移動し食事を取りますが、夜になると最大100頭以上の大規模な群れが形成され、崖などで休息をとります。また、コミュニケーションの一形態として、威嚇の際に口を大きく開けて犬歯を見せる行動を行います。

食性は非常に多様で、昆虫、小型爬虫類、木の葉、果実、種子などの多様な食べ物を摂取します。繁殖は胎生で、通常1頭（まれに2頭）の幼獣を産み、一夫多妻制のハーレムを形成します。オスはメスがまだ幼い頃にその家族から連れ出し、ハーレムのメスを増やしていきます。興味深いのは、メスがハーレムを離れようとすると、オスはすぐにメスの首に噛みついて引き止める行動です。この際、強すぎる力を加えられることによっては、メスが死んでしまう危険もあります。

人間との関係

古代エジプトにおいて、マントヒヒは神や神の使者として崇拝されていました。神殿の壁やパピルスにその姿が刻まれ、特別な聖獣として神殿に飼育されることもありました。現在この種はエジプトでは絶滅してしまいましたが、その名が持つ「神聖な」という意味は、こうした歴史的背景に由来しています。

時代を超えてマントヒヒの独自の生態や社会構造は人々の好奇心を惹きつけています。

もう一度検索