マージナル (漫画)

萩尾望都による漫画作品『マージナル』は、小学館の『プチフラワー』にて1985年8月号から1987年10月号にかけて連載されました。荒廃した近未来を舞台に、「男性のみの世界」という衝撃的な設定で描かれるSFファンタジーです。

物語は西暦2999年の地球を舞台に展開します。環境汚染により大地は不毛となり、さらに不妊ウイルスの蔓延によって人類はその生殖能力を失っていました。この世界は、唯一の女性であるとされる聖母「ホウリ・マザ」を中心に、彼女の息子たちだけで構成されていると信じられています。世界の中心である「センター」は、この特異な社会をミツバチの群れになぞらえて「マージナル」と呼び、厳格に管理しています。

しかし、子供が生まれる機会は年々減少し、人類の存続に対する不安は深まる一方でした。そんな閉塞感漂う中、世界の安定を象徴する存在であったマザが、ある祭礼の日に暗殺されるという衝撃的な事件が発生します。この出来事をきっかけに、世界の隠された真実が少しずつ明らかになっていきます。

物語の主人公は、16歳の少年キラです。彼は、ユーフラテス地区の森で遺伝子実験を行っていた生物学者、イワン・アレクサンドルとその妻アーリンによって、メイヤードから採取されたエゼキェラ因子とアーリンの卵子を用いて実験的に生み出された子供です。普通の人間には見られない犬歯を持つ彼は、元々は4人で一つの人格を共有していましたが、森の火災後、砂漠でさまよっていたところをグリンジャに拾われ、その後アシジンに買い取られます。「夢の子供」と呼ばれ、高い感応能力を持つキラは、物語の鍵を握る存在となります。

グリンジャは、砂漠にある医師の村の青年薬師です。子供が得られず滅亡に向かう村の未来を憂い、マザ暗殺計画に加わります。マザ暗殺後、砂漠でキラを拾いますが、足が付くことを恐れ、アシジンに彼を売ってしまいます。しかし、毒蜘蛛に噛まれたキラの治療をきっかけにアシジンと再会し、やがてキラと懇意になりますが、その過去が明るみに出て追われる身となります。

アシジンは、砂漠の岩屋で孤独に暮らす19歳の青年です。幼い頃に崖から落ちて重傷を負い、センターによって命を救われますが、その経験から「死にぞこない」と呼ばれ、村人から隔絶されて暮らしています。市場でグリンジャからキラを買い取り、奇妙な共同生活が始まります。彼は村長の息子でしたが、村の実権は異父兄弟であるフェロペが握っており、フェロペはマザ暗殺計画の中心人物でした。

世界で唯一の女性とされ、人々から崇拝されるホウリ・マザは、月の満ち欠けに合わせてモノドールに現れ、子供を分け与えるという伝説的な存在です。しかし、その実像は、不妊ウイルスに侵された地球を舞台にした「カンパニー」による巨大な実験、管理社会「マージナル」を維持するための虚構に過ぎませんでした。マザは、センターが誘拐した少年を性転換させ、投薬で意識を奪った上で延命させた存在であり、過去に6代存在していました。

マージナルの最高責任者であるメイヤードは、ユーフラテス地区にあるメディカルセンターの長官を務めています。カンパニーからマージナルプロジェクト終了の指示を受け赴任した彼は、キラの創造に関わった人物であり、遺伝子上はキラの父親にあたります。自身も難病を抱え、体に機械を埋め込み、女性ホルモン投与により半女性化しています。

キラを創造した生物学者の夫妻、イワン・アレクサンドルとアーリン・アレクサンドルは、火星の大学で天才と称えられていましたが、非合法な研究により大学を追放され、地球に密入国して遺伝子実験を繰り返していました。イワンは、母親の悲劇的な過去から、無限の共感性を持つ「夢の子供」を創造することを望んでいました。アーリンは、生み出したキラたちに次第に恐怖を抱き、旧友である生物学者スズキ・ゴー博士に助けを求めます。

『マージナル』は、不妊による人類滅亡の危機、遺伝子操作、性別、クローンといったSF的なテーマを深く掘り下げながら、管理社会における個人の尊厳や、生命の再生、そして家族や愛といった普遍的なテーマを描き出します。

本作は、小学館からプチコミックス版（全5巻）と小学館文庫版（全3巻）が刊行されています。また、メディアミックスも行われており、1988年にはNHK-FMでサウンドドラマとしてラジオドラマ化され、CDも発売されました。さらに、2008年には劇団StudioLifeによって舞台化され、新宿紀伊國屋ホールで公演が行われました。これらの展開も、作品の根強い人気を示しています。

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