ミズムシ (昆虫)

ミズムシとは

ミズムシ（水虫）は、カメムシ目ミズムシ科（Corixidae）に属する水生昆虫です。多くの水生カメムシ類が鎌状の前肢を持ち、鋭い口で他の昆虫を捕食するのに対し、ミズムシ類は藻類などを食べるおとなしい虫として知られています。

形態

ミズムシは、体長がおおよそ1cmに満たない小型の昆虫です。中でもチビミズムシは特に小さく3mm程度ですが、その他の種は5mmを超え、多くは7～8mm程度です。体は前後が丸みを帯びた長方形で、頭部と胴部の幅はほぼ同じです。ただし、チビミズムシ類はやや楕円形をしています。また、体は背腹方向にやや偏平になっています。

頭部は幅広く、左右に大きな複眼があります。触角は目立ちません。下面にある口はごく短い吸い口です。

前胸とそれ以降の胴体の幅はほぼ同じで、成虫では胴体の背面は翅で覆われます。背面は光沢があり、水を弾きます。

前肢はごく短く、鎌状というよりスプーンのような形をしています。中肢は長く、先端がカギ状になっており、体を水中の物体に固定するのに使われます。後肢は長く、先端がオールのようになっており、遊泳に使われます。また、前肢の一部には発音器官があり、短く鋭い音を出す種もいます。

卵は水中の水草の茎などに産み付けられます。幼虫は、体がやや短く翅がないことを除けば、成虫とよく似ています。

習性

ミズムシは、多くが浅く穏やかな水域に生息します。チビミズムシ類には流水を好む種もおり、浅い河川の底で多く見られます。また、チビミズムシ類には、雄が体をこすり合わせて発音する種が複数知られています。晴れた気温の高い日には、浅い水たまりなどでクロチビミズムシのようなチビミズムシ類が群れている場所に近づくと、シュー、シューというガス漏れのような音が聞こえることがあります。

普段は水底にじっとしていることが多く、水面を泳ぎ回ることはあまりありません。泳ぎは素早く、短時間で移動しては再び水底に体を固定するという動き方をします。外見が似ているマツモムシのように長時間ゆっくり泳ぐことはありません。成虫は背面に畳んだ翅の下に、幼虫は腹面に密生した毛の間に空気を保持して呼吸しているため、何かに体を固定しないと浮いてしまいます。

多くの水生カメムシ類が強力な捕食者であるのに対し、ミズムシ類は捕食性が低いことが特徴です。ミゾナシミズムシのようにボウフラなどの小型水生昆虫を捕食する種もいますが、多くはワムシ程度の微小動物を捕食したり、単細胞藻類や糸状藻類のような微生物の細胞に口吻を突き刺して原形質を摂取します。水底にいるミズムシを観察すると、スプーン状の前肢で泥の表面を盛んにかき混ぜ、餌を探している様子が見られます。

分類

ミズムシ類にはいくつかの属がありますが、チビミズムシ属を除いては外見がよく似ており、同属の種も多いため、分類は難しいとされています。日本では約30種が知られていますが、未記録種も存在すると考えられています。また、一部のため池に生息する種は、生息地の減少により絶滅が危惧されています。

日本産の主なミズムシの例を以下に示します。

ミヤケミズムシ属 Cenocorixa
ミヤケミズムシ C. vittipennis
コミズムシ属 Sigara
エサキコミズムシ S. septemlineata
コミズムシ S. substriata
ハラグロコミズムシ S. nigroventalis
ミゾナシミズムシ属 Cymatia
ミゾナシミズムシ C. apparens
ミズムシ属 Hesperocorixa
ミズムシ H. distanti
ナガミズムシ H. mandschurica
オオミズムシ H. kolthoffi
チビミズムシ属 Micronecta
チビミズムシ M. sendula
クロチビミズムシ M. orientalis
ウスイロチビミズムシ M. sahlbergi

利用

ミズムシは、他の水生カメムシのように魚を襲うこともなく、経済的、社会的に直接的な害はありません。しかし、「風船虫」という別名で親しまれ、子供向けの遊びに利用されることがあります。

風船虫とは、夜間に明かりに飛来したミズムシの中で比較的大きなものを使った遊びに由来する名前です。ミズムシは水中で泳ぐとすぐに水底に脚でしがみついて体を固定します。これは、呼吸のために保持している空気の浮力で浮いてしまうのを防ぐためです。

遊び方は、まずコップに水を入れ、小さく切った色紙を沈めます。そこにミズムシを入れると、ミズムシはすぐに水底に潜って色紙につかまります。すると、ミズムシは色紙を持ったまま浮き上がってきます。水面に達すると、ミズムシは慌てて再び潜り、別の色紙につかまります。するとまた紙と一緒に浮き始め、ミズムシが離れた紙は沈みます。これを繰り返すうちに、コップの中は浮かぶ色紙と沈む色紙で彩られ、まるで色紙が舞っているかのように見えるのです。

この、紙をつかんで浮いてくる様子が風船のようだということで、ミズムシは「風船虫」と呼ばれるようになりました。この遊びは子供向けの本にもよく紹介されており、現実の生活での知名度以上に広く知られているようです。

海外での利用

海外では、ミズムシ類を食用とする例があります。メキシコでは、Corosiella spp. や Krizousacorixa spp. の卵を「ahuahutle」と呼び、食用にしています。産卵期にはアシの茎の束を湖に沈め、そこに産卵させます。アシの茎が真っ白になるほど卵がつき、これを乾燥させてそのまま食べるか、豆の碾き割りを混ぜて食べるそうです。

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