ミナミカワトンボ科

ミナミカワトンボ科（Euphaeidae Selys）は、トンボ目均翅亜目に属する昆虫の一群です。一見すると小型のカワトンボのように見えますが、系統的には非常に特殊な位置を占めています。

成虫の形態

成虫は一般的なカワトンボと似た外見をしています。しかし、翅の構造には原始的な特徴が強く残っています。後翅は前翅よりもやや短く、体色や翅の色が鮮やかな種も多く見られます。

幼虫の形態

幼虫の姿はカワトンボと大きく異なります。カワトンボの幼虫が細長い体型をしているのに対し、ミナミカワトンボ科の幼虫は前後に短く、やや扁平な体型をしています。むしろヒラタカゲロウに似た外見と言えるでしょう。尾鰓は太くて短く、腹面に対をなした糸状の鰓（腹側鰓）を持つのが大きな特徴です。

節足動物の体は、体節ごとに一対の付属肢を持つのが基本構造です。多くの昆虫のグループでは、付属肢は体の部位ごとに変形しています。例えば、胸部の三対の付属肢は歩脚として発達し、腹部の付属肢は退化する傾向にあります。トンボ目の昆虫は腹部の付属肢が退化しており、幼虫・成虫ともに付属肢は見られません。しかし、ミナミカワトンボ科の幼虫は腹側鰓を持つことから、この腹側鰓は付属肢に由来する器官と考えられています。この特徴は、ミナミカワトンボ科がトンボの仲間の中でも特に原始的な形質を残していることを示唆しています。

生態

ミナミカワトンボ科の昆虫は、ほとんどが山間の渓流域に生息しています。

分布

東アジアから東南アジアにかけて11属58種が知られており、日本では以下の2属が分布しています。

ミナミカワトンボ属 Euphaea
ヒメカワトンボ属 Bayadera

参考文献

* 石田昇三・石田勝義・小島圭三・杉村光俊、『日本産トンボ幼虫・成虫検索図説』、(1988)、東海大学出版会

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