ミナリ

『ミナリ』は、1980年代のアメリカを舞台に、韓国系移民家族の生活と夢を追いかける姿を描いた感動的な物語です。監督は韓国系移民2世のリー・アイザック・チョン。自身の経験に基づいて、アーカンソー州に移住した家族の喜怒哀楽を丁寧に紡ぎ出しています。

主人公は、一攫千金を夢見て家族と共にアーカンソー州に移住したジェイコブ。彼はそこで農場経営を始めますが、妻のモニカは彼の計画に懐疑的です。長女のアンと幼い息子のデビッド、そして韓国からやって来たジェイコブの母親スンジャも加わり、家族は新たな土地で生活を始めます。

スンジャは毒舌家ながらも、家族に温かい愛情とユーモアを与えます。特にデビッドとは独特の絆で結ばれ、彼の成長に大きな影響を与えます。しかし、農場経営は思うようにいかず、家族は様々な困難に直面します。金銭的な苦労だけでなく、文化の違いや言葉の壁、そしてアメリカ社会での偏見も、彼らを苦しめます。

ジェイコブは成功への執着から、家族との時間を犠牲にして農場に没頭します。その結果、モニカとの関係は険悪なものになっていきます。そして、ある日、スンジャが倒れるという大きな危機に見舞われます。

本作は、アメリカン・ドリームを追い求める移民家族の葛藤と、その中で育まれる家族の絆を深く描いた作品です。スティーヴン・ユァン、ハン・イェリ、ユン・ヨジョンら実力派俳優たちの繊細な演技が、家族それぞれの感情を鮮やかに表現しています。特にユン・ヨジョンは、アカデミー賞助演女優賞を受賞し、世界中から高い評価を得ました。

映画のタイトル『ミナリ』は、韓国語でセリを意味します。公式サイトによると、この言葉には「たくましく地に根を張り、2度目の旬が最もおいしいことから、子供世代の幸せのために、親の世代が懸命に生きるという意味」が込められているとのことです。これは、アメリカという新たな土地で、子供たちの未来のために奮闘する家族の姿を象徴する言葉と言えるでしょう。

2020年サンダンス映画祭では、審査員賞と観客賞をダブル受賞するなど、高い評価を受けました。しかし、ゴールデングローブ賞では、台詞の多くが韓国語であることを理由に作品賞の候補から外され、批判の声も上がりました。これは、ハリウッドにおける言語や文化の多様性に関する議論を巻き起こすきっかけとなりました。

『ミナリ』は、単なる移民の物語にとどまらず、普遍的な家族の物語として、そしてアメリカ社会における多文化共生について考えさせる、深く感動的な作品です。美しい映像と、心に響く音楽、そして俳優たちの圧巻の演技は、観る者の心を揺さぶることでしょう。 アメリカ社会における異文化理解や、家族のあり方、そして夢と現実の狭間で葛藤する人間の姿を深く見つめる作品となっています。

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