ミハイル・ロンム

ミハイル・イリイチ・ロンム（Mikhail Il'ich Romm, 1901年1月24日 - 1971年11月1日）は、ソビエト連邦（現在のロシア）を代表する映画監督、脚本家です。

ロンムは、20世紀の激動期において、社会主義リアリズムを基盤とした映画製作を行い、ソ連映画の発展に大きく貢献しました。しかし、彼の作品は単なるプロパガンダ映画に留まらず、人間の複雑な心理や社会問題を深く掘り下げた、芸術性の高い作品として評価されています。

1930年代には、政治的なプロパガンダ映画を監督し、ソ連の社会主義体制を称賛する作品を制作しました。特に『十月のレーニン』(1937)は、革命の英雄レーニンを描いた作品として有名です。この作品は、ソ連国内で大きな成功を収め、ロンムの名声を確立しました。しかし、ロンムはそれだけに甘んじることなく、その後、社会の変化とともに自身の作風も変化させていきました。

第二次世界大戦後には、戦争の悲劇や人々の苦悩を描いた作品を制作しました。特に『夢』(1943)は、人間の内面を深く掘り下げた作品として評価されています。ロンムは、この作品で監督と脚本の両方を担当し、その才能を改めて示しました。この時期の作品では、社会主義リアリズムの枠に収まらない、人間の普遍的な感情を描こうとする意欲が見られます。

1960年代になると、ロンムは社会に対する批判的な視点を持つようになり、より実験的な作品を手がけるようになりました。『一年の九日』(1962)は、核科学者の苦悩と葛藤を描いた作品で、社会の矛盾を鋭く指摘しています。この作品は、当時のソ連映画としては異例のテーマを扱っており、大きな話題を呼びました。

ロンムの代表作の一つである『ありふれたファシズム』(1965)は、ナチス・ドイツのファシズムのメカニズムを分析したドキュメンタリー映画であり、映画史に残る傑作として高く評価されています。この作品は、単なる歴史的記録ではなく、現代社会にも通じる普遍的なテーマを扱っており、観る者に深い思考を促します。

ロンムの作品は、その時代背景を色濃く反映しながらも、人間の普遍的な感情や社会問題を深く掘り下げており、その芸術性は今日においても高く評価されています。彼の作品は、映画の歴史における重要な遺産であり、未来の世代にも受け継がれるべき価値を持っています。

主なフィルモグラフィー

『十月のレーニン』 - Ленин в октябре（1937年、監督）
『夢』 - Мечта （1943年、監督・脚本）
『一年の九日』 - Де́вять дней одного́ го́да （1962年、監督・脚本）
『ありふれたファシズム 野獣たちのバラード』 - Обыкновенный фашизм （1965年、監督・脚本）

外部リンク
ミハイル・ロンム - KINENOTE
ミハイル・ロンム - allcinema
* Mikhail Romm - IMDb（英語）

もう一度検索