ミハイル・ヴルーベリ

ミハイル・アレクサンドロヴィッチ・ヴルーベリ（1856年3月17日 - 1910年4月14日）は、19世紀から20世紀にかけて活躍したロシアの画家です。彼は、アールヌーヴォーと象徴主義の傾向を持つ独自のスタイルで、絵画、装飾、舞台美術など多岐にわたる分野で才能を発揮しました。

ヴルーベリは、オムスクの法律家の家庭に生まれ、サンクトペテルブルク大学で法律を学びました。その後、帝室美術アカデミーに入学し、パーヴェル・チスチャコフに師事しました。初期の作品から、その非凡な才能を示しており、1884年にはキエフの聖キリル教会の壁画制作を依頼されました。この依頼を機にヴェネツィアへ赴き、中世キリスト教美術を研究し、そこで「宝石のようにきらびやかで豊かな」と評される色彩感覚を獲得しました。しかし、ヴルーベリは作品を残すことよりも新しいものを生み出すことを重視したため、ヴェネツィアで描かれた作品のほとんどは失われています。

キエフでの仕事はヴルーベリの評判を高めました。聖キリル教会の壁画《12使徒のもとへの聖霊降臨》やイコン《聖母子像》はモスクワにも知れ渡り、著名な美術収集家パーヴェル・トレチャコフが教会を訪れた際、《聖母子像》を自分のコレクションに加えられなかったことを惜しんだと言われています。

1886年にキエフに戻ったヴルーベリは、新しく建設された聖ウラジーミル大聖堂の装飾デザインを提出しましたが、その革新的なスタイルは受け入れられませんでした。この頃、彼はハムレットやアンナ・カレーニナを題材に、後年のデーモンや預言者を主題とする作品とは対照的な、鮮やかな色彩を用いた作品を制作しています。

また、このキエフ時代には、ミハイル・レールモントフの長編詩「デーモン（悪魔）」を題材としたスケッチや水彩画に取り組み始め、これが彼のライフワークへと繋がっていきました。この時期、彼は東洋美術、特にペルシャ絨毯に強い関心を抱き、そのテクスチャーを自身の絵画に取り入れようと試みています。

1890年にモスクワへ移住したヴルーベリは、アールヌーヴォーの潮流に乗り、絵画のみならず陶芸やステンドグラスの制作にも才能を発揮しました。また、舞台セットや衣装デザインにも携わっています。彼の名声を確立したのは、大作《座るデーモン》（1890）でした。しかし、その独創的な表現は保守的な批評家から「醜い」と非難されました。それでも、美術パトロンのサヴァ・マモントフはデーモンシリーズを高く評価し、自身の私設オペラ劇場や友人の邸宅の装飾美術をヴルーベリに依頼しました。

1896年、ヴルーベリはオペラ歌手ナジェージダ・ザベラと結婚し、モスクワに居を構えました。彼女はマモントフの劇場で活躍し、ヴルーベリは舞台セットや妻の衣装デザインを担当しました。妻がリムスキー＝コルサコフのオペラを演じる姿を描いた作品も残されています。また、ロシアのおとぎ話を題材にした《パン》（1899）、《白鳥の王女》（1900）、《ライラック》（1900）といった作品も制作し、高い評価を得ました。

1901年、ヴルーベリは再びデーモンを題材にした大作《打倒されたデーモン》に取り組みました。彼は観衆を驚かせるために、発表後もデーモンの顔を繰り返し描き直しましたが、精神的な不調をきたし、精神科に入院することとなりました。入院中にも《真珠貝》（1904）やプーシキンの詩「預言者」をテーマにした連作を描きましたが、1906年に精神疾患と失明のため制作を断念しました。1910年、サンクトペテルブルクで亡くなりました。

ヴルーベリの作品は、その独特な色彩感覚と象徴的な表現によって、見る者を魅了し続けています。彼の作品は、ロシア美術史において重要な位置を占めており、後世のアーティストに多大な影響を与えました。

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