ミヒャエル・ヴォルゲムートの肖像

『ミヒャエル・ヴォルゲムートの肖像』は、ドイツ・ルネサンスを代表する画家アルブレヒト・デューラーが、1516年に油彩で描いた肖像画です。この作品は、デューラーが若き日に3年間師事した画家であり版画家でもあるミヒャエル・ヴォルゲムートを描いたものです。現在、ニュルンベルクのゲルマン国立博物館に所蔵されています。

ミヒャエル・ヴォルゲムートは、1434年から1519年まで生きた人物で、デューラーが修行時代を過ごしたニュルンベルクにおいて、当時最大規模の工房を経営していました。彼の現存する絵画作品は少ないものの、1484年に出版されたハルトマン・シェーデル著『シェーデルの世界史』の木版画挿絵の製作者として、ヨーロッパ美術史にその名を刻んでいます。この出版物は当時としては最大規模であり、ヴォルゲムートの版画技術の高さが伺えます。

肖像画が描かれた時、ヴォルゲムートは82歳でした。デューラーの肖像画としては珍しく、正方形に近い画面構成が特徴的です。画面の中央には、ヴォルゲムートの頭部が大きく捉えられており、これは画家とモデルの親密な関係を反映していると考えられます。しかし、デューラーは、師への敬愛の念を持ちつつも、ヴォルゲムートを美化することなく、老いた芸術家の頑固さや、容易に人を寄せ付けない厳しさを、率直に描き出しています。

デューラーは、ヴォルゲムートの表情や皺の一つ一つを丁寧に描写することで、その内面的な強さや、長年培われた風格を表現することに成功しています。この作品は、単なる肖像画としてだけでなく、デューラーが師であるヴォルゲムートに対して抱いていた尊敬の念と、芸術家としての客観的な視点が融合した作品として高く評価されています。また、デューラーの卓越した描写力と、対象の本質を見抜く洞察力が遺憾なく発揮された傑作と言えるでしょう。

この作品は、デューラーが師への感謝と敬意を込めて描いただけでなく、老境に達した芸術家の威厳と、その人生の重みを捉えた重要な歴史的資料としても価値があります。デューラーは、師の姿を通じて、ルネサンス期の芸術家の精神性を描いたともいえるでしょう。現在、この作品はゲルマン国立博物館で公開されており、多くの人々がデューラーの卓越した技術と、ヴォルゲムートの生き様を目の当たりにすることができます。


ゲルマン国立博物館の本作のサイト (ドイツ語)

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