ミューロケット

ミューロケット：日本の宇宙開発を支えた固体ロケットシリーズ

ミューロケットは、日本の宇宙開発史において重要な役割を果たした固体燃料ロケットシリーズです。東京大学生産技術研究所、宇宙科学研究所（ISAS）、そしてJAXA宇宙科学研究所と、日産自動車宇宙航空事業部およびIHIエアロスペースが共同で開発・運用に携わりました。

開発の歩み：M計画からABSOLUTE計画へ

ミューロケット開発は、大きく分けて「M計画」と「ABSOLUTE計画」の二つのフェーズに分けられます。

M計画：1.4m径の制約と技術革新

M計画は1960年代初頭に構想されました。当初は高度1万km以上の到達を目指した野心的な計画でしたが、1962年には糸川英夫博士による提言をきっかけに、直径1.4mという制約を課せられた中で、人工衛星打ち上げを目指した設計へと発展します。この制約は、長年にわたってミューロケットの開発に影響を与えることとなります。

M計画では、L-4型ロケットやK-10型ロケットなどを用いた技術開発が進められ、M-4S、M-3C、M-3H、M-3Sといった改良を重ね、最終的には3段式ロケットへと進化を遂げました。各モデルでは、誘導制御システムの搭載やロケットモーターの高性能化、軽量化などが進められ、打ち上げ能力の向上に繋がりました。

ABSOLUTE計画：高性能化への挑戦

1977年に始まったABSOLUTE計画（Advanced Booster by Solid Utilizing Technology of Extremity計画）は、ミューロケットのさらなる高性能化を目指したものです。全長18.5m、直径3m、総重量100tという、当時としては大規模なロケットを目指していました。しかし、1.4m径の制約から、計画を直接実行に移すことは困難でした。

M-3S改計画：制約下での進化

そこで考案されたのがM-3S改計画です。M-3Sをベースに、第1段の直径を1.4mに抑えつつ、上段の大型化や補助ブースターの採用により打ち上げ能力を大幅に向上させる計画でした。この計画はM-3SIIとM-3SIIIという二段階で進められ、最終的にはM-3SIIは、軽量化と推薬性能向上により打ち上げ能力を2.5倍に向上させました。しかし、1989年の宇宙開発政策大綱改訂により直径制限が撤廃されたことで、ABSOLUTE計画の完全実現を目指すM-Vロケットの開発へと移行しました。

M-Vロケット：直径制限からの解放と更なる高みへ

直径制限の撤廃により、ABSOLUTE計画の理念を具現化したM-Vロケットが開発されました。M-3SIIでの開発成果を踏まえ、全段に3軸姿勢制御やTVC誘導制御を採用するなど、大幅な性能向上を実現しました。しかし、ペイロード比は当初の目標には届かず、さらなる改良が続けられました。M-Vは、全段固体燃料ロケットとしては当時世界最大級の規模を誇り、日本の宇宙開発における重要なマイルストーンとなりました。

ミューロケットの遺産と未来

ミューロケットは、M-Vロケットの運用終了後も、その技術的遺産はイプシロンロケットなど後続のロケット開発に引き継がれています。日本の宇宙開発において、ミューロケットシリーズは、数々の科学衛星の打ち上げを通じて宇宙科学の発展に大きく貢献し、日本の宇宙技術力の向上に重要な役割を果たしたと言えるでしょう。

主要なミューロケットバリエーション

ミューロケットシリーズには、M-1、M-3Dといった試験機から、M-4S、M-3C、M-3H、M-3S、M-3SII、M-Vといった様々なモデルが存在し、それぞれが技術的進歩を示しています。それぞれのモデルには、誘導制御システムの搭載、ロケットモーターの大型化・高性能化、軽量化といった改良が加えられており、打ち上げ能力の向上に繋がりました。また、M-4SC、M-4SH、M-4SS、M-2H、M-3SIII、M-V-Liteといった計画段階で終わったモデルも存在し、日本の宇宙開発における技術開発の試行錯誤の歴史を示しています。

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