ミラフロレスの祭壇画

『ミラフロレスの祭壇画』：初期フランドル美術の傑作

『ミラフロレスの祭壇画』（または『聖母の三連祭壇画』）は、初期フランドル派の巨匠ロヒール・ファン・デル・ウェイデンが1442年から1445年頃に制作した三連祭壇画です。1850年以降、ベルリンの絵画館が所蔵しており、その芸術性と宗教的な深さから、今日でも多くの人々を魅了しています。

この祭壇画は、3枚の同じ大きさのパネルで構成され、それぞれがキリストの生涯における重要な場面を、マリアを中心に描いています。左翼には聖家族、中央パネルにはピエタ（磔刑後のキリストを抱く聖母）、右翼には復活したキリストがマリアの前に現れる場面が描かれています。これらは、キリストの誕生、死、そして復活という、時系列に沿った物語を表現しており、マリアの視点を通して、キリストの生涯を辿る構成となっています。

ファン・デル・ウェイデンの特徴である感情豊かな表現は、特に中央パネルのキリストの身体描写に顕著であり、その多様な色調の顔料は、白色、赤色、青色を中心に、作品全体に深みを与えています。

象徴的な要素

『ミラフロレスの祭壇画』は、宗教的な象徴表現が随所に施されています。各パネルは、丸いアーチ状のフレームで縁取られ、その下部と上部にはゴシック調の格子飾りが施されています。さらに、画面を囲むようにレリーフ彫刻のような装飾があり、これらも複雑な宗教的寓意を表現しています。これらの縁飾りは、観る者が絵画世界に実際に足を踏み入れることができるかのような印象を与え、作品への没入感を深めます。

美術史家ジェフリー・チップス・スミスは、最前部に一段高くなったステップが描かれていることで、観る者が聖書の世界を身近に感じられると指摘しています。また、当時の他の三連祭壇画とは異なり、オリジナルの『ミラフロレスの祭壇画』は、パネルが固定されており、両翼を折りたたむことはできませんでした。後世になってから、両翼が可動するように改造されました。

伝統的な絵画作品とは異なり、この祭壇画では、聖家族を描く際に他の聖者を加えることなく、キリストの家族のみを描いています。右翼に描かれた曲がりくねった小路は、復活したキリストがマリアの前に現れるために、天界と現界を一時的につなぐ道筋を意味しており、ファン・デル・ウェイデンの独創性が際立っています。

マリアのローブの色も象徴的で、白は純潔、赤は憐憫、青は忍耐を表しています。これらの色は、マリアが持つとされる3つの伝統的な徳を示しています。縁飾りの精緻な装飾もまた、キリストの生涯を物語る象徴的な意味を持っています。

この祭壇画は、ファン・デル・ウェイデンが描いた他の祭壇画（洗礼者ヨハネをモチーフとした作品）との関連性も指摘されており、どちらの作品も、アーチ状の縁飾りと、茶色に塗装された木製の扉のような外観を持ち、レリーフのような人物像が配置されている点が共通しています。

パネルごとの詳細

左翼：聖家族
紫がかった白色のローブを身につけたマリアが、幼児キリストと見つめ合っています。赤い衣服を着て杖に寄りかかって眠るヨセフも描かれています。マリアのローブの縁には、「マリアの祈り」の一節が金色の文字で記されています。エルヴィン・パノフスキーは、このパネルをシンプルに聖家族を描いたものと指摘しています。縁飾りには、キリストの幼少期の出来事が描かれています。

中央パネル：ピエタ
赤色のローブをまとったマリアが、磔刑に処せられたキリストの遺体を抱きかかえています。その両脇には、黒色の衣服をまとった聖ペテロと聖ルカが描かれ、初期キリスト教の確立と福音書をそれぞれ象徴しています。

* 右翼：復活したキリスト
福音書にはない、マリアの前に姿を現す復活したキリストが描かれています。このパネルでは、時系列的には過去であるはずの、墓所から復活したキリストが背景に描かれており、遠近感を強調しています。ファン・デル・ウェイデンは、曲がりくねった小路や開かれた扉、床のタイルなど、キリストの復活を象徴する要素を数多く描いています。縁飾りには、キリストの受難の前兆となる旧約聖書の出来事が描かれています。

真贋と来歴

『ミラフロレスの祭壇画』は、20世紀初頭までほとんど忘れ去られていましたが、ドイツ人美術史家マックス・ヤーコプ・フリートレンダーが、初期フランドル派に関する著作で、この作品がファン・デル・ウェイデンの作品であると同定しました。また、エルヴィン・パノフスキーも、フリートレンダーの著書をもとに、この祭壇画の詳細な説明と宗教的な寓意についての文献を残しています。

オリジナルの祭壇画よりもわずかに小さい複製画が現存しており、右翼はニューヨークのメトロポリタン美術館、中央パネルと左翼はグラナダの王室礼拝堂が所蔵しています。長らくこの複製画がオリジナルと考えられていましたが、近年の研究により、ベルリンの絵画館が所蔵する祭壇画がオリジナルであることが判明しました。

年輪年代学的な測定の結果、グラナダ王室礼拝堂とメトロポリタン美術館の祭壇画に使用された木材は、1492年以降に切り出されたものであるのに対し、絵画館の祭壇画に使用されている木材は、1420年代初頭に切り出されたものと考えられています。さらに、赤外線による下絵調査で、絵画館の祭壇画には完成に至るまでに何度も構成が変更されていることが明らかになり、模写ではないことが証明されました。

『ミラフロレスの祭壇画』は、カスティーリャ王フアン2世の依頼により制作され、1445年頃にカルトゥジオ会ミラフロレス修道院に寄進されました。イサベル1世が複製画を注文したのは、祭壇画が持つ宗教的権威や、作者、所有者の地位を高めるためであったと考えられています。

『ミラフロレスの祭壇画』は、ファン・デル・ウェイデンの芸術的才能と宗教的な深遠さが融合した傑作であり、初期フランドル美術における重要な作品として、今日でも高く評価されています。

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