ムサ (パルティア王妃)

ムサ：パルティアを揺るがした王妃の生涯

ムサ（Musa）は、アルサケス朝パルティアの王妃として、その名を歴史に刻みました。彼女は、その出自からは想像もできないほどの権力を手に入れ、パルティアの政治を大きく動かしました。

奴隷から王妃へ

ムサは、イタリア半島で生まれた女奴隷でした。彼女の運命が大きく変わったのは、パルティア王フラーテス4世がローマとの講和を結んだ際、ローマのオクタヴィアヌスからフラーテス4世へと贈られたことがきっかけでした。

美貌と知性を兼ね備えたムサは、フラーテス4世の寵愛を勝ち得ます。そして、フラーテス5世（フラータケス）を産み、「女神ムサ」と呼ばれるほどになりました。

王位継承を巡る暗躍

ムサは、息子フラーテス5世を王位に就けるため、その手腕を振るいます。他の王位継承者を排除するため、王妃ビステイバナプスと4人の王子をローマに人質として出すよう仕向け、息子を後継者とする事に成功しました。

王殺し、そして共同統治へ

紀元前2年、ムサはついに恐るべき行動に出ます。邪魔者を排除した後、フラーテス4世を毒殺し、息子フラーテス5世を即位させたのです。さらに、ムサは息子フラーテス5世と結婚し、共同統治者となりました。これは、パルティアの歴史において前例のない出来事でした。

没落とその後

しかし、ムサの権勢は長くは続きませんでした。彼女とフラーテス5世の共同統治は、パルティアの大貴族たちの強い反発を招き、フラーテス5世の失政も重なり、ムサたちは排除されることになります。西暦4年、新たな王としてオロデス3世が擁立されました。しかし、彼もすぐに廃位され、フラーテス4世とムサによってローマに人質に出されていた王子の一人、ヴォノネス1世が王位に就きました。

ムサの最期については詳しい記録は残っていませんが、彼女がパルティアの歴史に与えた影響は決して小さくありません。奴隷から王妃へ、そして王国の共同統治者へ。その波乱に満ちた生涯は、今もなお人々の関心を集めています。

参考文献

Chisholm, Hugh, ed. (1911). "Phraates". Encyclopædia Britannica (英語). Vol. 21 (11th ed.). Cambridge University Press.
Josephus, Antiquities of the Jews, xviii, 2–4.
* Royal Egyptian Genealogy, Ptolemaic Dynasty: Cleopatra Selene

もう一度検索