メアリー (ハーウッド伯爵夫人)

メアリー王女：英国王室を支えた生涯

メアリー王女は、1897年、イギリス国王ジョージ5世とメアリー・オブ・テックの間に生まれた長女でした。ヨーク・コテージで誕生した彼女は、幼少期を家庭教師のもとで過ごし、兄弟たちと共に教育を受けました。ドイツ語とフランス語を流暢に操り、生涯にわたって馬術と競馬を愛した王女は、1911年の両親の戴冠式に初めて公の場に登場しました。

第一次世界大戦勃発後、メアリー王女は母と共に、負傷兵の病院慰問や兵士とその家族への支援活動に積極的に従事しました。中でも有名な活動は、「メアリー王女のクリスマス・ギフト基金」による、イギリス軍兵士へのクリスマス・プレゼントの贈呈です。また、ガールスカウト運動の熱心な支援者でもあり、1920年にはイギリス・ガールスカウト協会の名誉総裁に就任、生涯その職務を全うしました。

1922年、メアリー王女はヘンリー・ラッセル子爵（後の第6代ハーウッド伯爵）と結婚しました。この結婚は、両親が決めたものであり、王女本人は乗り気ではなかったという説が広く伝えられています。当時、王女を溺愛していた兄のエドワード8世も、この結婚に反対したとされています。しかし、夫妻の長男である第7代ハーウッド伯爵ジョージは、回顧録の中で、両親の結婚生活は幸福なものであったと証言しており、噂とは異なる側面を示しています。

結婚後、夫妻はヨークシャーに居を構え、1929年にはヘンリーがハーウッド伯爵を継承しました。1932年、ジョージ5世は一人娘であるメアリー王女を「プリンセス・ロイヤル」の称号で叙任しました。メアリー王女は、兄エドワード8世と非常に親しかったことから、彼の退位後も、夫と共にウィンザー公夫妻を訪問するなど親密な関係を保ちました。しかし、エドワード8世の妻であるウォリス・シンプソン夫人に対しては、イギリス王室全体が強い反感を抱いていました。1947年、エリザベス王女（後のエリザベス2世）の結婚式にウィンザー公夫妻が招かれなかったことに抗議して、メアリー王女自身も欠席しています。この後も、ウィンザー公夫妻の王室行事への参加をめぐっては、様々な出来事が起こることになります。

第二次世界大戦中、メアリー王女は王族として積極的に軍の活動に参加し、全国各地を巡回しました。1947年に夫を亡くした後は、長男の家族と共にハーウッド・ハウスで暮らしました。1951年にはリーズ大学の総長に就任し、晩年まで国内外での公務に精力的に取り組みました。エリザベス2世の戴冠式や、トリニダード・トバゴ、ザンビアの独立式典などにも女王の代表として出席しています。最後の公務は、1965年3月に行われたスウェーデン王妃ルイーズの葬儀への出席でした。

メアリー王女は、1965年3月、ハーウッド・ハウスの敷地内を散歩中に心臓発作で急逝しました。生涯に6回ものイギリス国王の代替わりに立ち会った彼女は、曾祖母ヴィクトリア女王から、姪のエリザベス2世まで、英国王室の歴史的転換期を目の当たりにした人物でした。なお、1935年発行の10カナダドル紙幣には、メアリー王女の肖像が使用されています。彼女の子女には、第7代ハーウッド伯爵ジョージとジェラルドがいます。メアリー王女は、国民に愛された王族として、イギリスの歴史にその名を刻んでいます。

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