メアリー・アン・ニコルズ

メアリー・アン・ニコルズ：切り裂きジャック最初の犠牲者

メアリー・アン・ニコルズ（旧姓ウォーカー）は、1845年8月26日にロンドンのソーホーで生まれました。父は錠前鍛冶のエドワード・ウォーカー、母はキャロラインでした。1864年に印刷機械工のウィリアム・ニコルズと結婚し、5人の子供をもうけましたが、1880年頃に夫婦関係は破綻しました。離婚の原因は、ウィリアムが看護師と不倫したという説と、メアリーの飲酒癖が原因だという説の両方があります。

結婚と破綻

メアリーはウィリアムとの間に5人の子供をもうけましたが、結婚生活は長く続きませんでした。夫婦関係が悪化した背景には、ウィリアムの不倫疑惑と、メアリーのアルコール依存症の問題があったとされています。ウィリアムは当初、メアリーに生活費を渡していましたが、彼女が売春をしていることを知ると、扶養義務を放棄しました。

困窮と転落

夫と別れたメアリーは、救貧院や下宿屋を転々としました。生活は、慈善の施しや売春によるわずかな収入に頼るという困窮した状況でした。一時的に父親と同居したこともありましたが、口論の末に家を出ています。その後、鍛冶工のドゥルーという人物と同棲していた時期もありました。
1888年初頭には、トラファルガー広場で野宿しているところを発見され、ランベス救貧院に収容されました。その後、召使いとして働き始めましたが、アルコール依存症が原因で雇い主と対立し、解雇されています。殺害される直前は、スピタルフィールズの安宿に滞在していました。

殺害事件

1888年8月30日午後11時頃、メアリーはホワイトチャペル・ロードを歩いている姿が目撃されています。翌31日の午前0時30分には、ブリック・レーンのパブを出たところを目撃されました。その1時間後には、宿泊費が不足したため、宿を追い出されています。

午前2時30分頃、同居人のエミリー・ホランドがメアリーと出会い、その夜に宿泊費を稼いだが、アルコールに使ってしまったことを告げられます。これが、メアリーが生きている姿が目撃された最後の証拠となりました。

午前3時40分、荷馬車の御者であるチャールズ・クロスが、ホワイトチャペルのバックス・ローでメアリーの遺体を発見しました。彼女は喉を深く切り裂かれ、腹部も切り裂かれていました。クロスは、ロバート・ポールという別の御者と共に警察に通報しました。

検死と捜査

警察の調べで、メアリーは喉を切り裂かれたことによる失血死であることが判明しました。腹部の切り傷は、死後に付けられたものでした。検死を行った医師は、犯人が左利きである可能性を示唆しましたが、後にこの説は否定されています。

メアリーの事件は、当時連続して起きていた他の殺人事件との関連性が疑われ、スコットランドヤードが捜査に乗り出しました。当初は、ギャングによる犯行や、革のエプロンを身につけた人物による犯行という噂も流れましたが、いずれも決定的な証拠は見つかりませんでした。

メアリーの身元は、ペチコートに救貧院の洗濯マークがあったことから判明しました。元同居人のネリー・ホランドと夫のウィリアムが、遺体がメアリーであることを確認しました。

検死審問の結果、メアリーは午前3時直後に殺害されたと結論付けられました。しかし、この事件と他の殺人事件との関連性は、当初は否定されました。

切り裂きジャックの出現

しかし、メアリーの事件の後、同様の手口で女性が次々と殺害されました。これらの事件は、次第に同一犯による連続殺人事件として認識されるようになり、犯人は「切り裂きジャック」と呼ばれるようになりました。

メアリー・アン・ニコルズの事件は、切り裂きジャックの最初の犯行であると考えられており、その後の数々の殺害事件の幕開けとなりました。彼女の死は、ロンドンに恐怖をもたらし、未だに多くの謎を残しています。

葬儀

メアリーは、1888年9月6日にロンドン市共同墓地に埋葬されました。彼女の葬列には、夫のウィリアムと長男のエドワードが参加しました。1996年になって、彼女の墓に銘板が設置されました。

メアリー・アン・ニコルズの事件は、単なる殺人事件としてではなく、ヴィクトリア朝時代の貧困、社会問題、そして連続殺人鬼の恐怖を象徴する事件として、今もなお語り継がれています。

参考文献

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Honeycombe, Gordon (1982). The Murders of the Black Museum: 1870-1970
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Woods, Paul; Baddeley, Gavin (2009). Saucy Jack: The Elusive Ripper.

関連項目

切り裂きジャック
* ホワイトチャペル殺人事件

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