メランコリー (映画)

フランス映画『メランコリー』（原題：Les Marmottes）は、1993年に公開された一作です。クリスマスの賑わいに包まれたフランスの雪深いスキーリゾートを舞台に、休暇を過ごすために集まった様々な男女たちの人間模様を、ユーモアとペーソスを交えて描き出した群像コメディとして知られています。

物語の舞台となるのは、毎年決まってクリスマスシーズンにバカンスを楽しむ人々が集まるシャモニーのホテル。そこには、数組のカップルや夫婦がやってきます。外見上は皆が楽しそうに、理想的な関係を築いているかのように見えますが、その実、彼らの内情は決して単純ではありません。それぞれの登場人物は、誰にも知られたくない秘密や、一筋縄ではいかない複雑な事情を抱えています。長年連れ添った夫婦に見えても、実は互いに心を通わせない「仮面夫婦」である現実が露呈したりと、彼らが楽しみにしていたはずのバカンスは、次第に波乱含みの展開へと向かっていくことになります。

本作は、登場人物たちのそれぞれのストーリーを並行して描き出す群像劇のスタイルを採用しています。この手法はロバート・アルトマン監督作品を彷彿とさせますが、監督のエリ・シュラキは、自身の持ち味である軽快で洗練されたタッチで物語を紡いでいきます。登場人物たちの置かれた状況や、人間関係のもつれを、重すぎず、かといって浅すぎない絶妙なバランス感覚で描き出すことで、観客は彼らの抱える問題に共感しつつも、その滑稽さや皮肉に笑いを誘われます。華やかなリゾートという非日常的な空間と、そこで展開されるどこか日常的な人間の弱さや煩悩との対比も、作品の魅力の一つと言えるでしょう。

キャストには、フランス映画界を代表する豪華な顔ぶれが集結しています。アンドレ・デュソリエ、ジャクリーン・ビセット、アヌーク・エーメ、ジャン＝ユーグ・アングラード、マリー・トランティニャン、ジェラール・ランヴァン、クリスティーヌ・ボワッソン、ダニエル・ジェランといった実力派の俳優たちが、多種多様なキャラクターたちに命を吹き込み、物語に深みを与えています。特に、当時まだ無名に近かった若手女優、ヴィルジニー・ルドワイヤンの初々しくも印象的な演技は、本作の見どころの一つとして挙げられます。彼女の瑞々しい存在感は、当時の観客に強いインパクトを与えました。

スタッフ面では、監督自身がダニエル・トンプソンと共同で脚本を手がけ、練り上げられた会話劇を生み出しています。ロベール・アラズラキによる冬景色やリゾートの雰囲気を見事に捉えた撮影も、作品の空気感を形成する上で重要な役割を果たしています。音楽は多くの名作を手がけたガブリエル・ヤレドが担当し、主題歌はエンゾ・エンゾが歌っています。

この映画は、その後の1998年にはフランス国内でテレビシリーズとしても製作されています。エリ・シュラキが再び原作・製作総指揮を務め、キャストを一新して新たな物語が描かれましたが、このテレビシリーズは残念ながら日本には公式に紹介されていません。

『メランコリー』は、美しいリゾートを舞台に、人間関係の複雑さや隠された真実が明らかになる過程を、軽妙なユーモアととも描いた作品です。豪華キャストによる確かな演技と、エリ・シュラキ監督の洒脱な演出が光る、楽しくも考えさせられる群像コメディとして、今なお愛されています。

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