メルケルの斜方形

メルケルの斜方形とは

メルケルの斜方形（メルケルのしゃほうけい、ドイツ語: Merkel-Raute）は、ドイツのアンゲラ・メルケル首相を象徴するハンドジェスチャーです。これは、胸の下あたりで両手を合わせ、指先が触れ合うようにする仕草で、親指と人差し指が作る形が四角形（Raute）に似ていることから名付けられました。メルケル自身も「手のやり場に困った結果」と語っており、特にアドバイザーの指示によるものではなく、自然に身についたものだと言われています。彼女はこのジェスチャーについて、「対称性へのある種の愛」を込めていると述べています。

政治的利用

当初、このポーズはメルケル首相を揶揄する目的で用いられていました。コメディアンが彼女の派手なジャケット姿と合わせて物真似をするのが一般的でした。しかし、次第にこのジェスチャーはメルケルの代名詞となり、政治的にも利用されるようになります。

2013年には、バイロイト音楽祭でのオペラ「さまよえるオランダ人」の演出で、資本主義批判の象徴としてこのポーズが用いられました。舞台上では、エリート銀行員や経営者たちがシンクロしてこのジェスチャーを行い、観客に強い印象を与えました。

一方、メルケルの所属するキリスト教民主同盟（CDU）はこのポーズを、メルケルの揺るぎないリーダーシップを象徴するものとして政治的に利用しました。2013年の連邦選挙戦では、ベルリン中央駅に巨大な垂れ幕広告が掲げられました。この広告は、CDUの支持者が「斜方形」のポーズをしている2150枚の写真で構成され、モザイク状に巨大な「斜方形」を描いていました。広告には「ドイツの未来は安心な人の手に委ねられた」というスローガンが添えられ、選挙におけるCDUのメッセージを具現化するものとして位置づけられました。

この巨大広告は、野党議員から「キューバ的」「異様な個人崇拝」と批判されました。ベルリンの新聞「ターゲスシュピーゲル」は、メルケル首相を「お母さん（Mutti）」と呼び、このポーズが政治家のキャラクターを強調しすぎる点を指摘しました。

CDUはその後も選挙キャンペーンで「メルケルの斜方形」を積極的に利用しました。例えば、青年部は各地でメンバーが輪になってこのジェスチャーを行うフラッシュモブを企画し、ポスターには「冷静に、首相に投票せよ」というスローガンと共にこのジェスチャーの画像が使われました。これらのポスターデザインはTシャツやパーカーなどの衣料品にも転用されました。さらに、CDUの選挙広報チーム「チーム・ドイチュラント」はウェブサイトで、このポーズをメルケルのシンボルとして使用しています。キリスト教民主学生連盟も「メルケル派学徒」というウェブサイトで、このポーズをとった学生たちの写真を掲載し、閲覧者に同様の写真をアップロードすることを推奨しました。

インターネット・ミームとしての拡散

CDUの巨大広告は、インターネット、特にソーシャルメディアで大きな反響を呼びました。特に、ミスター・バーンズ、グランピー・キャット、スポックなど、同様のポーズを取るキャラクターとメルケルの手をコラージュした画像が人気を集めました。

CDUはインターネット上で「メルケルの斜方形」を表すイモティコン「<>」を政治的シンボルとして利用しました。例えば、選挙キャンペーンのポスターが印刷されたバッグを景品として、このイモティコンを使ってコメントを投稿するコンテストをFacebook上で開催しました。このように、「メルケルの斜方形」は、単なるハンドジェスチャーから、政治的なシンボル、そしてインターネットミームへと変貌を遂げました。

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