メルセデス・ベンツ・M272エンジン

メルセデス・ベンツM272エンジン：技術と歴史、そして問題点

メルセデス・ベンツのM272エンジンは、同社が2004年から2010年代前半にかけて生産したV型6気筒ガソリンエンジンです。SLKクラスへの搭載から始まったこのエンジンは、Cクラス、Eクラス、Sクラスなど、幅広い車種に搭載され、メルセデス・ベンツの中核を担うパワートレインとして長きに渡り活躍しました。

優れた技術と設計

M272エンジンは、アルミ製ディープスカートタイプのシリンダーブロックや、4点支持クランクベアリングを採用するなど、堅牢かつ軽量な設計が特徴です。V型6気筒エンジンとしては珍しい90度のバンク角を採用しており、これは同シリーズのV型8気筒エンジンM273と共通化することでコスト削減を実現しています。

さらに、クランクピンの配置を工夫することで等間隔燃焼を実現。スムーズな回転と優れた燃費性能に貢献しました。吸気系には、回転数に応じて吸気管長を変化させる可変吸気システムを搭載。マグネシウム製の吸気マニフォールドが、その役割を担っています。

バルブ機構は、DOHCの4バルブ方式で、吸気側をチェーン、排気側をギアで駆動。メルセデス・ベンツとしては初めて、吸排気両方に可変バルブタイミングシステムを採用しました。高性能と環境性能の両立を追求した設計と言えるでしょう。排気バルブには、高温耐久性に優れたインコネル材を使用しています。

主要搭載車種

M272エンジンは、様々なメルセデス・ベンツ車種に搭載されました。代表的なモデルとしては、Eクラス、Cクラス、Sクラス、SLKクラス、SLクラス、CLKクラス、CLSクラス、MLクラス、Rクラスなどがあります。多くのモデルで7速AT（7G-TRONIC）との組み合わせでしたが、一部モデルでは5速ATも採用されていました。

知っておくべきバランスシャフトスプロケットの問題

M272エンジンは、高い信頼性を持つ一方で、特定の製造期間（2004年から2008年頃、シリアルナンバー2729..30 468993未満）のエンジンにおいて、バランスシャフトスプロケットギアの早期摩耗という問題が報告されています。

この問題は、初期段階ではエンジン警告灯の点灯や異常振動といった症状として現れ、最終的にはエンジン停止に繋がる可能性があります。修理にはエンジンを車体から降ろす必要があるため、高額な費用が必要となるのが大きな問題です。

北米ではこの問題を巡り集団訴訟が起こり、メルセデス・ベンツは修理費用の70%を負担することで仮和解が成立しました。しかし、日本国内では同様の訴訟や和解は行われておらず、修理費用は原則として所有者負担となるため注意が必要です。中古車を購入する際は、製造年とエンジンシリアルナンバーを確認し、この問題のリスクを考慮することが重要です。

エンジンバリエーション

M272エンジンは、排気量によっていくつかのバリエーションが存在します。主要なものは以下の通りです。

M272M35 (3498cc): 最高出力272PS、最大トルク35.7kgm
M272M30 (2996cc): 最高出力231PS、最大トルク30.6kgm
* M272M25 (2496cc): 最高出力204PS、最大トルク25.5kgm

これらのエンジンは、いずれも「平成17年排出ガス基準75%低減レベル（★★★★低排出ガス車）」認定を取得しています。

まとめ

M272エンジンは、メルセデス・ベンツの技術力を示す優れたエンジンでしたが、バランスシャフトスプロケットの問題は、中古車購入時の注意点を理解しておく必要があることを示しています。購入を検討する際には、製造年、走行距離、整備履歴などを十分に確認し、専門家の意見を聞くことも有効な手段と言えるでしょう。M272エンジンは、その後M276エンジンへと後継されました。

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