メルセデス・ベンツ・W15

メルセデス・ベンツ W15：世界を変えた革新的なミドルクラス

1931年から1936年にかけて、ダイムラー・ベンツ社がメルセデス・ベンツブランドで生産したW15は、世界恐慌の影が長くのしかかっていた時代における画期的なモデルでした。当時、高級車中心だったメルセデス・ベンツにとって、より広い市場層へのアプローチは喫緊の課題でした。その結果誕生したのが、中価格帯のミドルクラス車、W15シリーズ（170シリーズ）です。

W15シリーズの概要：技術革新と商業的成功

W15シリーズは、乗用車タイプの「170」とバンタイプの「L300」の2種類がありました。1931年、パリの自動車ショーで「170」が先行発表されると、その革新的な技術と手頃な価格が世界中の注目を集めました。世界的な不況下にもかかわらず、W15シリーズは商業的に大きな成功を収め、世界中の自動車メーカーに大きな影響を与えたのです。1936年には後継モデルの170V（W136）が登場し、W15シリーズの生産は終了しました。

タイプ170：世界初の量産車4輪独立懸架

「170」の最大の革新は、世界で初めて量産車に4輪独立懸架を採用したことでした。前輪には横置きリーフスプリング独立懸架、後輪にはコイルスプリングによるスイングアクスル式サスペンションを採用することで、小型軽量な車体でありながら、優れた乗り心地と操縦性を実現しました。

搭載されたエンジンは、1,692ccのサイドバルブ直列6気筒エンジン。最高出力は32PSと控えめでしたが、これは当時のトレンドだった振動抑制のための小排気量多気筒化の影響です。3速MTにはオーバードライブ機構（0.73ギアレシオ）を備え、90km/h走行時の燃費は100kmあたり11Lでした。

ブレーキは油圧式4輪ブレーキ、さらにサーモスタットによる冷却調整機能、ハンドルロックによる盗難防止対策など、当時の最新技術が惜しみなく投入されていました。シャーシ重量750kg、車両重量は1,050～1,200kg、総重量は1,455kgでした。
ボディタイプは当初4ドアセダンと4ドアカブリオレのみでしたが、軍の需要を受けて、2ドアセダン、2ドアワゴン、2ドアカブリオレも追加されました。

タイプL300：多様なニーズに対応するバンモデル

1932年春には、W15シリーズのバンモデル「L300」が発売されました。「L300」という名称は、最大積載量が300kgであることに由来します。リーフスプリングによるスイングアクスル式サスペンションと油圧ブレーキを採用し、商用用途での高い実用性を備えていました。

W15シリーズの遺産

W15シリーズは、世界恐慌という困難な時代において、革新的な技術と商業的成功を両立させた稀有な存在でした。世界初の量産車4輪独立懸架という技術的偉業は、自動車史に燦然と輝く功績であり、後の自動車技術発展に多大な影響を与えました。そのシンプルながら革新的な設計、そして市場ニーズを捉えた戦略は、現代の自動車開発にも通じる重要な教訓を与えてくれます。

もう一度検索