メルセデス・F1 W03

メルセデス・F1 W03：革新と課題の狭間を駆け抜けたマシン

2012年のF1世界選手権を舞台に、メルセデスAMGはメルセデス・F1 W03を投入しました。これは、メルセデスワークスの復活後3作目となるマシンであり、チームは開発期間を最大限に活用するため、最初の合同テストをスキップし、2回目のバルセロナテストから本格的な走行を開始しました。

ダブルDRS：賛否両論を巻き起こした革新的システム

W03の最大の特徴は、なんと言ってもその革新的な空力システム、通称「ダブルDRS」です。これは、2010年シーズンで禁止されたFダクトの応用と言えるもので、フロントウィングとリアウィングのDRSを連動させることで、直線での最高速度を向上させることを目指しました。

フロントウィングの工夫

フロントウィングには、ノーズ先端から吸気した空気を複数の経路に分割し、フロントウィング裏側のスリットから放出する「Wダクト」と呼ばれるシステムが搭載されていました。このシステムは、直線走行時は全経路が機能する一方、コーナリング時は気流の角度変化によって片側のウィングにのみ効果を発揮する、受動的なシステムでした。そのため、レギュレーションに抵触しないとの判断が下されました。

リアウィングとの連動

しかし、このシステムはリアウィングのDRSと連動するという更なる工夫が施されていました。ドライバーがDRSを作動させると、リアウィングのフラップが開き、同時に翼端板内側の穴が露出。そこから取り入れた空気がフロントウィングへと導かれ、Wダクトをより効果的に機能させるという、極めて複雑な仕組みでした。

この連動システムは、前後ウィングを同時に制御することから「ダブルDRS」と呼ばれ、マスコミや関係者の間で大きな話題となりました。予選では自由にDRSを使用できるため、予選タイムの向上に大きく貢献しました。しかし、このシステムの合法性については議論が巻き起こり、レッドブルやロータスは違法性を主張しましたが、FIAは合法と判断しました。

ダブルDRSのその後

この複雑なシステムは、シーズン中に追随するチームが現れず、その効果も疑問視されました。そのため、FIAは2013年シーズンからDRS連動型の装置を禁止することを発表しました。また、メルセデスはベルギーGPから、ロータスが開発したリアウィング用のダブルDRS（後に「トリプルDRS」とも呼ばれた）のテストも行いましたが、実戦投入には至りませんでした。

2012年シーズンの戦績

W03は予選では高い戦闘力を発揮し、中国GP予選ではフロントローを独占、ニコ・ロズベルグが自身初、メルセデスワークスとしては実に1955年以来の優勝を飾りました。また、ミハエル・シューマッハもモナコGPでポールポジションを獲得寸前まで迫り、ヨーロッパGPでは現役復帰後初の表彰台を獲得するなど、光明も見えました。

しかしながら、レースペースの悪さやタイヤの摩耗、マシントラブルやピット作業のミスなどが響き、後半戦は低迷。終盤6戦では1回しか入賞することができませんでした。チーム首脳のロス・ブラウンは、ダブルDRSの開発に注力したことで、他の重要な技術開発に遅れをとったと語っており、その複雑なシステムが、レースでの結果に影を落としたと言えるでしょう。

W03のスペック

W03は、革新的な技術と高いポテンシャルを秘めながらも、レースペースの課題や複雑なシステムの開発に時間を割いたことによる開発の遅れなど、様々な要因が絡み合い、その真価を発揮しきれなかったマシンと言えるでしょう。しかし、その挑戦的な姿勢は、F1の歴史に新たな一ページを刻みました。

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