モオツァルト (小林秀雄)

書名: モオツァルト

『モオツァルト』は、著者小林秀雄が44歳の時に執筆した、作曲家ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトについての際立った評論です。1946年12月、創元社の『創元』創刊号で初めて発表され、その内容は後にモーツァルト理解の金字塔として広く評価されることとなりました。小林秀雄はこの作品を通じて、モーツァルトの音楽の本質に迫り、その芸術的価値を余すところなく伝えています。

執筆の背景

作品の構想は小林が44歳の時に始まり、執筆は1942年から1946年までの4年間にわたり、彼が伊豆の古屋旅館に滞在中に行われました。原稿の末尾には1946年7月と記載されており、彼の意図が具現化される過程を反映していると言えます。

内容の概要

評論の中で小林は、ゲーテがモーツァルトの音楽を「人間どもをからかう為に、悪魔が発明した音楽」と表現した引用から始まり、モーツァルトの音楽の奥深さに迫ります。特に、ト短調シンフォニイの第4楽章におけるシンプルさと、そこに内在する多層的な悩みについて詳細に言及されています。

小林はまた、モーツァルト自身の手紙の中から、音楽家としての自己認識や表現に対する彼の姿勢を引用し、モーツァルトの音楽が「優美」、「均斉」、「快活」、「静穏」という、わずか数語で構成されていることを強調します。これらの言葉が示すように、モーツァルトの作品は言語を超えた美を具現化し、聴く者を沈黙させる力を持っているのです。

モーツァルトの才能とその重荷

小林はさらなる洞察を与え、モーツァルトに与えられた天賦の才がどのような重荷であったかを考察します。天才とは、努力し得る才能であり、モーツァルトはその才能を最大限に発揮するために独自の方法で努力を発明したと述べています。また、画家ランゲとの友情が、モーツァルトの音楽の真の姿を創出する要素として強調されます。

音楽的特徴

モーツァルトの音楽には、唐突に見えて非常に自然な転調や、短いメロディが持つ魔術的な魅力が秘められていると小林は語ります。彼のメロディは一息で終わるほどの短さでありながら、その背後には動的でかつ儚い美が存在すると指摘します。モーツァルトの創作における目的意識は薄く、彼が重視したのは、その瞬間の感覚や表現方法であったという観点からも、彼の作品は非常に魅力的であると小林は主張します。

具体的な作品への言及

評論の中では、モーツァルトの多くの名作、例えば『ドン・ジョヴァンニ』や『フィガロの結婚』、さらには交響曲や四重奏曲などが取り上げられ、それぞれの作品が持つ独特の美しさや深い意義が述べられています。特に、モーツァルトの音楽が持つ「悲しさ」や「ジョイフルさ」をどのように聴取者が体感するかについて、多角的に考察しています。

評価と批判

この作品は、記念碑的な評論として高く評価されており、音楽家や批評家から賞賛の声が多く上がっています。しかし、その文体については様々な意見が交わされ、詩的な表現が優先されるあまり、論理的な展開が不足しているとの批判も存在します。特に、モーツァルトの歌劇に対する軽視とも受け取れる言及には賛否の声が分かれています。友人の河上徹太郎がモーツァルトに関する研究を補完することで、この受容の多様性を示しました。

『モオツァルト』は、モーツァルトの音楽を深く理解しようとするすべての人にとって、非常に貴重な参考文献となります。

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