モチェ文化

モチェ文化：ペルー北海岸の高度な文明

モチェ文化は、紀元前後から7世紀頃までペルー北海岸で栄えた、インカ文明に先行する高度な文明です。モチェ川流域を中心に、ラ・レチェ川からワルメイ川流域までの広大な地域に、複数の国家から成る社会を形成していました。

驚異の技術と芸術

モチェ文化の最大の特徴は、その精巧な工芸技術にあります。特に有名なのは、写実的な人物や動物、植物などを描いた鐙型注口土器です。鮮やかな色彩と精緻な造形は、高度な技術と芸術性を示しています。黄金やトゥンバガ（金、銀、銅、砒素の合金）を使った装飾品も数多く発見されており、モチェの人々の豊かな創造性を物語っています。

発展した灌漑農業

モチェの人々は、乾燥した海岸地域においても、高度な灌漑農業技術を駆使していました。全長100キロメートルを超える運河や、巨大な貯水槽を建設し、トウモロコシ、豆、ジャガイモ、ピーナッツなど多様な作物を栽培していました。これらの農業技術は、人口増加と社会の発展を支える重要な基盤となりました。漁業、狩猟、採集、交易も行われ、多様な生業形態が経済を支えていたと考えられます。

複雑な支配体制

モチェ文化の支配体制は、従来はモチェ川流域を中心とした統一国家と見なされていましたが、最近の考古学的調査により、より複雑な様相が見えてきました。モチェ川流域の勢力と、ランバイェケ川流域などの他の勢力は、互いに影響を与えあいながら共存、競合を繰り返していたと考えられています。

島田泉氏やマイケル・モーズリー氏らの研究によると、初期にはモチェ川流域とランバイェケ川流域の勢力がそれぞれ独自の政治的中心を形成し、発展を遂げました。その後、モチェ川流域の勢力が南部の河谷を支配下に置き、ランバイェケ川流域の勢力は下流域へ勢力を拡大。最終的には、モチェ川流域の勢力がランバイェケを服属させた可能性が指摘されています。モーズリー氏の説では、南側は直接支配、ランバイェケは間接的に支配されていたと推測されています。

モチェ文化の終焉

モチェ文化は7世紀頃終焉を迎えます。「太陽のワカ」や「月のワカ」といった主要な神殿ピラミッドが放棄され、代わりに幾何学的な区画を持つ都市遺跡が建設されるなど、社会構造に大きな変化が現れました。

この衰退の原因については、かつてはワリ文化の侵略などが考えられていましたが、現在では、6世紀後半に発生した大規模なエルニーニョ現象による気候変動が主要因と推測されています。オハイオ州立大学のロニー・トンプソン氏らの研究では、565年から600年にかけて発生した大規模なエルニーニョ現象が、モチェ文化の滅亡と関連している可能性が示唆されています。また、内部抗争などの内的な要因も滅亡に影響を与えた可能性があります。

まとめ

モチェ文化は、精緻な工芸技術と高度な灌漑農業技術によって栄えた高度な文明でした。しかし、複雑な支配体制や、エルニーニョ現象などの自然災害の影響を受け、7世紀頃に滅亡しました。その衰退過程は、古代文明の盛衰と環境変動の関わりを考える上で、重要な事例となっています。

もう一度検索