モナ・ヴァンナ

『モナ・ヴァンナ』（Monna Vanna）、別名『裸のモナ・リザ』は、16世紀初頭、1508年から1510年頃にレオナルド・ダ・ヴィンチのアトリエで描かれたと考えられている女性の肖像画です。フランスのシャンティイにあるコンデ美術館に所蔵されており、1862年に購入されました。

この作品は、その寸法、構図、表情、ポーズなど、多くの点でレオナルド・ダ・ヴィンチの代表作『モナ・リザ』と驚くほど似ています。しかし、『モナ・ヴァンナ』が『モナ・リザ』と決定的に異なるのは、モデルが裸婦である点です。このため、『裸のモナ・リザ』という別名で呼ばれることもあります。

『モナ・ヴァンナ』は、厚紙を継ぎ合わせたものに木炭で描かれた作品です。長らく、作者や制作年が不明確であったため、レオナルドの弟子が描いた『モナ・リザ』のパロディであるという見方も存在しました。しかし、2017年にコンデ美術館がルーヴル[[美術館]]系列のフランス国立美術館修復研究センターに分析を依頼した結果、レオナルドの指導の下で弟子が描いた作品であることが判明しました。

さらに、この絵には、油彩画の習作として描かれたことを示す痕跡があります。肖像の目の輪郭には、無数の小さな黒い穴が開いており、これは絵を写し取るために針で刺された跡と考えられています。また、腕には斜めに走る細い線が見られ、これは晩年に半身不随となったレオナルドが、左腕だけで描いた跡であると推測されています。これらの事実から、『モナ・ヴァンナ』にはレオナルド自身も手を加えていた可能性が高いと考えられています。

レオナルドの死後、この絵は多くの画家に模写され、それがフランス全土に実在の女性の裸体を描くという動きを広めるきっかけとなりました。コンデ美術館の主任学芸員であるマチュー・デルディックは、『モナ・ヴァンナ』について、「男性的な美と女性的な美の中間と言えるでしょう。モデルがいて描かれたものではなく、ダ・ヴィンチが追い求めた理想の美だと思います」と述べています。

このように、『モナ・ヴァンナ』は単なる模写や習作ではなく、レオナルド・ダ・ヴィンチの芸術的探求と、その時代における美の概念を深く理解するための重要な手がかりとなる作品です。その制作過程や、後世への影響などを考慮すると、美術史において特筆すべき作品であると言えるでしょう。

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