モルデカイ・リンカーン

モルデカイ・リンカーン（1771年 - 1830年）は、アメリカ合衆国第16代大統領エイブラハム・リンカーンの叔父にあたる人物です。彼の生涯は、アメリカ開拓時代の生活、家族の絆、先住民との衝突、そして不動産取引といった、当時の社会情勢を色濃く反映しています。

生い立ちと家族

モルデカイは1771年に、エイブラハム・リンカーンとバテシバ・ヘリングの長男として現在のバージニア州で生まれました。父親のエイブラハムは、祖父から受け継いだ土地を売却し、ケンタッキー州へと移住しました。モルデカイには、ジョサイア、トーマス、ナンシー、メアリーという兄弟がいました。一家はルイビル近郊に定住しましたが、その地域は当時、先住民との係争地であり、入植者たちは襲撃に備え、砦の近くに住む必要がありました。父親は開拓を進め、トウモロコシを栽培し、家を建てていました。

父親の死と相続

1786年、モルデカイが15歳の時、父親は畑仕事中に先住民の襲撃を受け命を落としました。この事件はモルデカイの心に深い傷跡を残し、彼は生涯にわたり先住民への憎悪と復讐心を抱き続けたと言われています。父の死後、モルデカイは長男として長子相続の制により土地と財産を相続しました。当時の慣習では、弟たちへの遺産配分はなく、彼らは自ら生計を立てる必要がありました。その後、一家はケンタッキー州ワシントン郡へと移り住みました。

成人後の生活

1792年、モルデカイはメアリー・マッドと結婚し、6人の子供をもうけました。彼は1797年に父親から相続したジェファーソン郡の土地を売却し、その資金でスプリングフィールドの土地を購入しました。そこで、彼は2階建ての家を建て、後に「リンカーンホームステッド」と呼ばれるようになりました。この家はその後、改築されましたが、現在もその場所に残っています。モルデカイは競走馬の飼育も行っていたとされています。1810年までに400エーカー以上の土地を所有し、その後、グレイソン郡に引っ越しました。

イリノイ州への移住と死

1828年春、モルデカイはイリノイ州ハンコック郡へと移住しました。1830年12月、彼は3日間に及ぶ吹雪の中で命を落としました。モルデカイの遺体は、雪が解けた4月まで発見されませんでした。彼の死後、妻メアリーは息子のモルデカイと暮らし、彼の墓はFountain Green近郊の墓地にあります。

人物像とエイブラハム・リンカーンとの関係

モルデカイは、知性と常識、寛大さ、そして口承文学に長けていた人物として知られています。エイブラハム・リンカーン大統領は、大伯父のモルデカイについて、「家族の才能をすべて持って行ってしまった」と評したと伝えられています。また、モルデカイ一家は、エイブラハムと同様に「リンカーンの恐怖」と呼ばれる鬱病に罹りやすかったとされています。

リンカーン邸

モルデカイ・リンカーンが晩年を過ごしたケンタッキー州スプリングフィールドの家は「モルデカイ・リンカーン邸」として知られ、現在ではアメリカ合衆国国家歴史登録財に登録されています。彼の家は、当時の開拓時代の建築様式を今に伝える貴重な遺産となっています。

モルデカイ・リンカーンは、アメリカの歴史において、その後の大統領となるエイブラハム・リンカーンの家族として、また開拓時代を生き抜いた人物として重要な存在です。

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