モンゴルのチベット侵攻

モンゴル帝国とチベット：13世紀の邂逅と支配

13世紀、広大な版図を誇ったモンゴル帝国は、チベット高原にもその勢力を及ぼしました。本稿では、モンゴルによるチベット侵攻とその支配について、歴史的史料に基づき詳細に解説します。

モンゴルとチベット：最初の接触

モンゴルとチベットの最初の接触については、様々な伝承が存在します。有名な『蒙古源流』は、チンギス・カン時代に両国の接触があったと記していますが、現代の研究では、これは西夏遠征の記述を改変したもので、史実とは認められていません。しかし、西夏がチベット仏教の影響を受けていたことから、モンゴル帝国が西夏を通じて間接的にチベット仏教に接触していた可能性は指摘されています。

コデンによるチベット侵攻

モンゴル軍がチベットに本格的に進出したのは、オゴデイ帝の治世、コデン将軍による侵攻（1240～1241年）が最初です。コデンは南宋遠征の過程でチベットにも目を向け、侵攻を試みました。チベット側の史料にはラサ近郊の寺院が襲撃されたとの記述がありますが、オゴデイ帝の急死により侵攻は頓挫しました。

サキャ・パンディタとモンゴルの関係

コデンは、チベット仏教サキャ派の指導者サキャ・パンディタを招請しました（1244年）。サキャ・パンディタは、甥らと共にコデンのもとを訪れ、モンゴルの権威への服従をチベットの有力者に促しました。この出来事が、モンゴルのチベット支配の始まりとされ、「施主・帰依処関係」と呼ばれる両者の政治的・宗教的関係が確立しました。

モンゴル諸王によるチベットの分割

モンゴル帝国は、征服地を諸王や功臣に分配する慣習がありました。モンケ・カアンの治世には、チベットの支配権もモンゴル諸王に分割されました。これは、直接的な支配ではなく、特定の教団に僧侶を招聘する権利を与えることで、間接的に支配下に置く形をとったと考えられています。

クビライとパクパ：新たな関係

クビライは、サキャ・パンディタの甥であるパクパと会見し、チベット支配における協力関係を築きました。これは、コデン家との利害調整という側面も持ち合わせていました。パクパは、クビライの王権を宗教的に正当化する役割を担い、チベットにおけるモンゴルの支配を強化しました。

チベットの内乱とモンゴルの介入

モンゴル支配下のチベットでは、サキャ派と他の勢力との間で内乱が起こりました。「クンガ・サンポの乱」「ディクン派の乱」など、複数回にわたる内乱にモンゴルは介入し、サキャ派を支援することで、支配体制を強化しました。これらの内乱を通して、モンゴルによるチベット支配は奥地まで及ぶようになり、サキャ政権が確立されました。

まとめ

モンゴル帝国によるチベット支配は、単なる軍事征服ではなく、政治的・宗教的な交渉と介入を繰り返す複雑な過程でした。サキャ・パンディタやパクパといった宗教指導者との関係構築が、モンゴルのチベット支配に重要な役割を果たしたことは特筆すべき点です。この支配体制は、14世紀半ばまで続き、チベットの歴史に大きな影響を与えました。今後の研究では、西夏国との関係や、チベット内部の各派閥間の力関係、モンゴル支配下のチベット社会の変容などを更に詳細に解明していく必要があります。

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