モータードライブ (カメラ)

モータードライブの歴史と進化

モータードライブは、カメラのフィルム巻き上げを自動化し、高速連写を可能にするための重要なアクセサリーです。特に報道写真やスポーツ写真など、一瞬のチャンスを逃せない撮影現場では不可欠な存在となりました。「モードラ」という略称でも親しまれています。

モータードライブ登場以前

従来のロールフィルムカメラでは、シャッターを切るたびに手動でフィルムを巻き上げる必要がありました。このため、高速連写は事実上不可能でした。この課題を解決するために開発されたのがモータードライブです。

モータードライブの黎明期

ゼンマイ式モータードライブ

初期のモータードライブには、ゼンマイの力を利用したスプリングドライブ方式がありました。ロボットI（1934年発売）を始めとするロボットシリーズが代表的ですが、ゼンマイの駆動力に限界があり、使用できるフィルムサイズやマガジンに制約がありました。ベル＆ハウエルのフォトン（1948年発売）など24×36mm判のカメラも存在しましたが、高価で普及には至りませんでした。日本ではリコーオートハーフやキヤノンダイアル35など、24×18mm判のハーフサイズカメラに採用されることが多かったようです。

電気式モータードライブ

電気モーターを利用したモータードライブは、ニコンS2Eに最初に搭載されたとされています。しかし当時の報道カメラマンからは「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる」と批判的に見られることもありました。しかし、1959年に発売されたニコンFにオプションとして設定されると、東京オリンピックで海外の報道カメラマンがモータードライブを駆使して決定的な瞬間を捉える姿を見て、日本の報道カメラマンの意識も変わっていきました。1971年発売のニコンF2では、モータードライブが脱着可能になり、他メーカーも追随するようになりました。

ワインダーの登場

モータードライブは高価だったため、フィルム巻き上げ速度が遅いワインダーが普及版として登場しました。初期の例としてトプコンスーパーDM用が挙げられますが、市場からは「メジャーなメーカーが出すべき」との声もありました。1976年にはキヤノンAE-1が「連写一眼」として大ヒットし、ワインダーが広く認知されるようになりました。

高速モータードライブモデル

特に高速連写が求められる分野では、一般カメラをベースにした超高速連写モデルが登場しました。ニコンFハイスピードは7コマ/秒を実現しましたが、連写中にミラーアップが必要でした。キヤノンは1972年のオリンピックのために、F-1をベースに9コマ/秒の高速モータードライブカメラを開発。ペリクルミラーを採用して連写中のファインダーブラックアウトを解消しました。その後、ニコンもガラス製ハーフミラーを採用した高速モデルを発売しました。キヤノンは1984年のロサンゼルスオリンピックに向けて14コマ/秒のNewF-1ハイスピードモータードライブカメラを開発、その技術は後のEOS-1RSにも受け継がれました。

カメラ本体への内蔵

1962年発売のヤシカセクエルが、電気モーターを内蔵した最初のカメラです。コンパクトカメラでは比較的早くからモーターが内蔵されましたが、初期のものはフィルム巻き上げの自動化が主な目的でした。世界初の一眼レフモータードライブ内蔵カメラは、1970年発売のミノルタSR-Mですが、露出計がなく電源も別体でした。ミノルタX-1モーターは露出計内蔵で電源一体型になりましたが、重量や連写性能の問題から普及しませんでした。コニカFS-1は、モータードライブ内蔵でボディサイズも小型化し注目を集めましたが、設計上の問題からリコールとなり、一眼レフ市場から撤退する遠因となりました。1980年代にはコンタックスやキヤノンもモーター内蔵モデルを発売しましたが、普及には至りませんでした。

オートフォーカス化とモータードライブ内蔵の一般化

ミノルタα-7000（1985年発売）以降、オートフォーカスが普及すると、フォーカスモーターを駆動するために大容量電源が必要となり、モータードライブ内蔵化のデメリットが小さくなりました。小型大容量のリチウム電池の普及も後押しとなり、外付けのモータードライブは次第に姿を消しました。1986年のミノルタα-9000が、外付けモータードライブをオプション設定した最後の機種となりました。

モータードライブの欠点と改善

初期のモータードライブは作動音が大きく、静かな場所での使用には不向きでした。しかし、ニコンF4やキヤノンEOS100の時代には、巻き上げ音の低減が意識されるようになりました。また、電池消費が大きく、カメラが重くなる傾向がありましたが、省電力化や電池の改良、軽量化により改善されました。


モータードライブは、フィルムカメラの撮影の可能性を大きく広げた重要な技術革新の一つです。初期の課題を克服し、カメラ本体への内蔵を経て、現在ではデジタルカメラにもその技術が生かされています。

もう一度検索