モーツァルト家

モーツァルト家は、オーストリアの美しい街ザルツブルクに拠点を置いた、世界的に名高い音楽家一家です。一家の名は、特に父レオポルトとその息子であるヴォルフガング・アマデウスの歴史的な功績によって、今日まで広く知られています。

一家の歴史は大変古く、その起源は14世紀初頭、具体的には1321年から1330年頃まで遡ることができます。元来の地は、現在のドイツ南部、バイエルン州南西部とバーデン＝ヴュルテンベルク州南東部の境目にあたるアルゴイ地方でした。この地域はレヒ川流域やアルゴイ高地などに広がり、現在でもモーツァルト姓の人々が点在しています。有名な作曲家、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトの父方の祖先も、このアルゴイ地方の出身でした。

興味深いのは、一家がかつて用いていた姓です。当初は「モツハルト（MotzhardtやMotzhartなどの綴り）」と記されており、その語源には「みすぼらしい者、卑しい者」や「湿地の藪」といった意味が含まれていたとされています。こうした否定的な響きを避けるためか、一家は後に現在の「モーツァルト（Mozart）」という綴りに姓を改めました。その後、一家はアウクスブルクを経由し、南方のシュタウデンを経てプファーゼーという土地へと移り住んでいきました。

モーツァルト家の家系を辿ると、音楽家として名を馳せる以前は、主に建築や工事業に携わる人々が多かったことがわかります。記録に残る最古の祖先とされるダーフィト・E・モツハルトは、17世紀初頭にアルゴイ地方で農夫として暮らしていました。その息子ダーフィト（1620-1685）は、アウクスブルク近郊のプファーゼーに移住し、煉瓦職人や大工の棟梁として頭角を現しました。彼はディッリンゲンのプファール教会の尖塔建設に貢献しており、この教会は当時アウクスブルク司教の夏の離宮でした。

ダーフィトの子孫たちも、建築・工事業を受け継ぎました。ダニエル（1645-1683）やフランツ（1649-1694）は煉瓦職人として活動しました。また、ハンス・ゲオルク・モーツァルト（1647-1719）は煉瓦職人・大工の棟梁であり、同業者の組合（ツンフト）の親方も務めました。彼はアウクスブルクのザンクト＝ゲオルク司教座教会の建築を手掛けるなど、その技術は高く評価されており、有力なフッガー家の後援も受けていました。さらに、ダーフィトの子孫には、ミヒャエル・モーツァルト（ダーフィト・モーツァルト神父、1655-1710）のように、フランチェスコ会修道士となった人物もおり、一家の多様な一面を示しています。

一家が音楽の世界へと大きく舵を切るのは、ハンス・ゲオルクの弟フランツの子であるヨハン・ゲオルク・モーツァルト（1679-1736）の代に端を発します。ヨハン・ゲオルク自身は製本工でしたが、彼の息子こそが、後の高名な音楽家、レオポルト・モーツァルト（1719-1787）です。レオポルトはザルツブルクで宮廷楽師および作曲家としてのキャリアを築き、モーツァルト家を音楽家の家系として確立しました。彼はまた、息子ヴォルフガング・アマデウスの並外れた才能を早期に見出し、その教育とプロモーションに力を注ぎました。

そして、1756年に生まれたヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト（1756-1791）の登場により、モーツァルト家は世界的な名声を獲得しました。彼は音楽史における最も偉大な作曲家の一人とされ、その作品は今日でも世界中で愛され続けています。レオポルトと妻アンナ・マリア・ペルトルとの間には、ヴォルフガングの他に、マリア・アンナ（愛称「ナンネル」、1751-1829）が成人しました。ナンネルも幼い頃は音楽の才能を発揮し、弟と共に演奏旅行に参加しましたが、当時の社会状況もあり、弟のような音楽家としての道を歩むことはありませんでした。

ヴォルフガングと妻コンスタンツェの間には複数人の子どもが生まれましたが、多くが幼くして亡くなりました。記録に残る子どもたちとしては、ライムント（1783、夭折）、カール・トーマス（1784-1858）、ヨハン・レオポルト（1786、夭折）、テレージア（1787-1788、夭折）、アンナ（1789、夭折）、そしてフランツ・クサーヴァー（1791-1844）がいます。成人したのはカール・トーマスとフランツ・クサーヴァーの二人だけでした。フランツ・クサーヴァーは父と同じく音楽家となり、「ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト2世」と名乗ることもありましたが、父ほど著名な存在とはなりませんでした。

レオポルトには、ヨハン・ゲオルクの子としてフランツ・アロイス（1727-1791）という弟がおり、彼も父と同じ製本工でした。このフランツ・アロイスの娘にあたるマリア・アンナ・テクラ（愛称「ベーズレ」、1758-1841）は、ヴォルフガングとの間で交わされた奔放な内容の手紙が知られています。

このように、モーツァルト家は14世紀の農夫から始まり、代々建築・工事業に携わった後、レオポルトとヴォルフガングという二人の天才音楽家によって、世界の音楽史に不朽の足跡を残す一家へと発展していったのです。

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