モード・スライ

モード・スライ（Maud Slye, 1879年2月1日 - 1954年9月17日）は、20世紀前半に活躍したアメリカの女性病理学者であり、癌の遺伝的要因に着目した先駆的な研究で知られています。彼女は、純系マウスを用いた大規模な繁殖実験を行い、癌の発生に遺伝がどのように関与するかを明らかにしようとしました。

ミネアポリスで生まれたスライは、シカゴ大学とブラウン大学で学びました。1908年、シカゴ大学でマウスの神経学的実験を開始しましたが、その後、癌研究に転向しました。シカゴ大学構内の自宅に40年間住み、15万匹ものマウスを飼育し、系統管理を行いました。この膨大な数のマウスを用いた研究こそが、彼女の癌研究における最大の功績と言えるでしょう。

1916年、アメリカがん学会で癌の遺伝説を発表しました。これは当時としては画期的なものでしたが、同時に大きな議論を呼びました。リトル（Clarence Cook Little）をはじめとする研究者から激しい批判を受けました。批判の主な理由は、マウスにおける実験結果を安易に人間に適用し、配偶者の選択によって癌を根絶できると主張した点にありました。遺伝要因だけで癌の全てを説明しようとする姿勢は、当時の科学界において受け入れがたいものでした。

しかし、スライの研究は、癌研究における遺伝的要因の重要性を示唆するものであり、後の研究に大きな影響を与えました。彼女は26年間休みを取らずに研究に没頭し、生涯独身を貫きました。1922年に准教授、1926年に助教授に昇進し、1945年に引退、病理学の名誉教授となりました。1914年には米国医師会の金メダル、1922年にはアメリカ放射線学会の金メダルを受賞するなど、その業績は高く評価されています。

モード・スライの研究は、現代の癌研究における遺伝子治療や個別化医療の基礎を築いたと言えるでしょう。彼女の先駆的な研究は、癌との闘いにおける新たな道を切り開いたのです。

彼女の研究姿勢は、研究者のあるべき姿を示すものでもあります。困難な状況にあっても、自らの信念を貫き、研究に没頭する姿勢は、多くの研究者に勇気を与え続けています。

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