モーリス・ドリュオン

モーリス・ドリュオン：文学と政治に生きた多才な生涯

フランス文学と政治の歴史に名を刻むモーリス・ドリュオン（Maurice Druon, 1918-2009）は、パリに生まれ、作家、そして政治家として波乱の20世紀を生きました。ユダヤ系の家系にルーツを持つ彼は、その長い生涯において、数々の著名な文学作品を生み出すとともに、フランスの文化と社会にも深く貢献しました。

ドリュオンの初期の重要な業績の一つに、第二次世界大戦中の困難な時代における文化的抵抗への貢献があります。彼は、著名な作家でありジャーナリストでもあった甥のジョゼフ・ケッセルと共に、ロシアのシンガーソングライター、アンナ・マリーによる『パルチザンの歌（Le Chant des Partisans）』をロシア語からフランス語に翻訳しました。この歌は、占領下のフランスにおけるレジスタンス運動のアンセムとなり、希望と勇気を与える祝歌として広く歌われました。戦後もフランスを代表するポピュラーソングの一つとして、その歴史的な意義と共に歌い継がれています。

作家としての評価は高く、特に1948年に発表した小説『大家族（Les Grandes Familles）』は、フランス文学界で最も権威ある賞とされるゴンクール賞を受賞し、彼の名声を不動のものとしました。この作品は、フランスの上流階級を描いたもので、そのリアリズムと筆致が絶賛されました。また、子ども向けの作品としては、反戦のメッセージを込めた童話『みどりのゆび（Titof les Indiens）』も知られています。

ドリュオンの文学的キャリアにおいて、特に重要な位置を占めるのが歴史小説シリーズ『呪われた王たち（Les Rois Maudits）』です。1950年代に刊行が始まったこの壮大なシリーズは、14世紀初頭のフランス王室、カペー朝末期からヴァロワ朝初期にかけての王朝の興亡を克明に描いたものです。綿密な史実に基づきながらも、サスペンスフルな展開とドラマティックな筆致で読者を魅了し、歴史小説の傑作として国際的に高く評価されました。このシリーズの成功と文学的な功績は、ドリュオンがフランスの文化・知性の最高機関であるアカデミー・フランセーズの会員に選出される決定的な要因となりました。

1966年12月8日、ドリュオンはアカデミー・フランセーズの「不滅の40人」の一員に選ばれました。彼は、前任者である作家ジョルジュ・デュアメルの死去に伴い、第15代の席次30を受け継ぎました。アカデミー会員として、彼はフランス語の保護と発展に尽力し、その知性と影響力をもってフランスの文化に貢献し続けました。

文学活動と並行して、ドリュオンは政治の世界にも足を踏み入れました。1973年から1974年にかけて、当時の首相ピエール・メスメル内閣において文化大臣を務め、フランスの文化政策の推進に携わりました。短い期間ではありましたが、作家としての経験を活かし、文化行政の分野でもその手腕を発揮しました。

モーリス・ドリュオンは、2009年4月14日に90歳でその生涯を閉じました。彼は、第二次世界大戦中の抵抗を象徴する歌の翻訳から、権威ある文学賞の受賞、そして歴史小説の傑作シリーズの創作、さらには文化大臣としての貢献に至るまで、文学、歴史、そして政治という多岐にわたる分野で顕著な足跡を残しました。彼の作品は今日でも多くの人々に読まれ、フランスの文化遺産の一部として記憶されています。

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