ヤクシカ

ヤクシカ

ヤクシカは、ニホンジカの亜種であり、鹿児島県の屋久島と口永良部島にのみ生息しています。特筆すべきはその小型の体躯で、体高は約80cmほどです。成熟したメスの体重は19～25kg、オスは24～37kg程度ですが、屋久島東部にはより大型の個体も確認されています。また、ニホンジカのオスは角が4本に枝分かれするのが一般的ですが、ヤクシカでは3本以下であることがほとんどです。さらに、体に対して四肢が短いという特徴も持っています。

形態と進化

ヤクシカのこれらの特徴は、遺伝的な進化の結果であると考えられています。一般的に、動物が小型化するのは、捕食者が少ない環境や、生息密度が高く、食料を巡る競争が激しい場合に起こりやすいとされます。屋久島には、中型以上の肉食動物が自然分布していた証拠がないことから、ヤクシカの小型化もこの説が当てはまると考えられています。

食性

ヤクシカは、常緑広葉樹林に生息し、落ち葉や果実、種子などの森林内落下物（リター）を主な食料としています。その割合は全体の7割にも達します。これには、ヤクシマザルが木の上で採食中に落としたものも含まれます。残りの3割は、植物の葉やキノコ類などです。また、動物の骨やシカの角、稀に死んだ鳥などの動物の遺骸を食べることもあります。一方、高標高のヤクザサ帯では、単子葉類の草本が主要な食料となります。

行動域

常緑広葉樹林内におけるヤクシカの行動域は狭く、メスは7～17ha、オスは4～78ha程度です。ただし、オスのなかには数kmほど行動域を移動する個体もいますが、これは特定の季節に起こるわけではありません。また、冬に積雪のある高標高地域に生息するヤクシカについては、季節的な移動をするかどうかは確認されていません。

個体群動態

江戸時代後期には、ヤクシカの個体数は非常に多かったとされています。当時、人を恐れない個体もいたようです。1950年頃までは、海岸近くから亜高山帯まで広く分布していましたが、1960年代からの拡大造林により激減し、低地では見られなくなりました。1969年には捕獲数が100頭まで減少し、生息数も1,500頭程度となりました。しかし、1990年頃から回復し始め、2012年には約18,000頭と報告されています。

被害問題

ヤクシカによる農作物被害は、少なくとも江戸時代から発生していました。1970年代からは、屋久島の特産品であるポンカンやタンカンなどの樹皮食いや畑作、植林木への被害が深刻化しています。これらの被害は、ヤクシカの個体数が激減していた時期に始まっており、たとえ個体数が少なくても被害が発生することが示唆されています。対策として、1978年から有害駆除が開始され、年々駆除数を増やしています。1999年からの10年間は、農地周辺での集中的な駆除が行われましたが、農業被害はほとんど変化がありませんでした。また、捕獲圧が高い場所では、シカの日周活動が変化するものの、生息密度への影響は少ないことが確認されています。

2000年以降、自然植生や希少植物など、自然生態系への悪影響が指摘されるようになりました。そのため、2008年頃から山地での捕獲が再開されています。2010年には、自然生態系への影響に対する対策を講じるため、屋久島世界遺産地域科学委員会のもとにヤクシカ・ワーキンググループが設置され、全島的な個体数調整を目指しています。しかし、個体数管理については、屋久島の動植物の研究者らが自然生態系保全の観点から問題点を指摘しています。

脚注

関連項目

日本の哺乳類一覧
島嶼生態学
* ベルクマンの法則

もう一度検索