ヤコブ・マルシャック

ヤコブ・マルシャック

ヤコブ（ジェイコブ）・マルシャック（Jacob Marschak, 1898年7月23日 - 1977年7月27日）は、20世紀に活躍したアメリカ合衆国の経済学者です。特に計量経済学の分野において、理論と実証研究を結びつける重要な貢献を果たしました。ロシア帝国で生まれ、ドイツ、イギリスでの教育・研究活動を経てアメリカへ移住し、シカゴ大学のコウルズ委員会を率いるなど、国際的な経歴を持ちます。

生涯と経歴

マルシャックは1898年にロシア帝国のキエフで生誕しました。父は宝石商でした。若い頃にキエフ工科大学で学んだ彼は、学生時代に社会民主党（メンシェヴィキ）の活動にも参加しています。その後ドイツへと移り、ベルリン大学とハイデルベルク大学で経済学を専攻。1922年にハイデルベルク大学で博士号（Ph.D.）を取得しました。

博士号取得後、1922年から1926年までジャーナリストとして活動。その後、学術界に戻り、1928年から1930年までキールの世界経済研究所に研究員として勤務しました。1930年にはハイデルベルク大学の助教授となりますが、ユダヤ系の出自であったことから正教授への道が閉ざされ、ナチスの台頭するドイツを離れることを余儀なくされました。

1933年、マルシャックはイギリスへ渡り、オックスフォード大学のオール・ソウルズ・カレッジで経済学講師を務めます。1935年にはオックスフォード大学から修士号（M.A.）を授与され、同年から1939年まで統計学の準教授（reader）として、また統計研究所の理事として活躍しました。

1939年、ロックフェラー財団からの助成金を得てアメリカ合衆国へ移住します。ニューヨークにあるニュー・スクール・フォー・ソーシャル・リサーチで経済学教授を務めた後、1943年にシカゴ大学の教授に就任しました。ここで彼は、当時の計量経済学研究を牽引していたコウルズ委員会の所長となり、確率論的手法を用いた経済モデルの研究などを推進しました。

1955年、コウルズ委員会がシカゴ大学からイェール大学へ移転すると、マルシャックもこれに伴ってイェール大学へ移籍します。さらに1960年には、カリフォルニア大学ロサンゼルス校（UCLA）の教授となり、晩年まで研究・教育活動を続けました。

業績と栄誉

マルシャックは計量経済学の基礎確立と発展に大きく貢献しました。特に、経済モデルの識別問題や、不確実性下での意思決定理論、情報の経済学など、幅広い分野で独創的な研究を行いました。また、コウルズ委員会を率いることで、多くの優れた経済学者を育成し、研究コミュニティの形成にも寄与しました。

その学術的な功績は高く評価され、1946年には計量経済学会の会長を務めています。また、1963年には王立統計学会の名誉フェローに、1967年にはアメリカ経済学会の卓越したフェローに選出されました。UCLAの名誉教授でもありました。

晩年、アメリカ経済学会の会長に就任することが予定されていましたが、1977年7月27日、就任を待たずしてロサンゼルスで脳梗塞のため79歳で死去しました。

主要著作

マルシャックの代表的な著作には以下のものがあります。

『Die Lohndiskussion』（1930年）
『Elastizität der Nachfrage』（1931年）
『The New Middle Class』（エミール・レーデラーと共著, 1937年）
『Economic Theory of Teams』（ロイ・ラドナーと共著, 1972年） - 邦訳『チームの経済理論』
* 『Economic Information, Decision and Prediction』（1974年） - 邦訳『経済情報、意思決定、および予測』

ヤコブ・マルシャックは、困難な時代背景の中で国境を越えて活躍し、計量経済学という分野を確立・発展させた偉大な学者として、その名を留めています。

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