ヤブマメ

ヤブマメ

ヤブマメ（藪豆、学名：Amphicarpaea edgeworthii）は、マメ科ヤブマメ属に分類される一年生のつる性植物です。和名の通り、他の植物に巻きつきながら繁茂する姿が特徴的です。

分布と別名

この植物は主に東アジアに分布しており、日本、中国を原産地とし、朝鮮半島、ロシアの一部、ベトナム、インドなど広範囲で見られます。日本では古くから親しまれており、地域によっては「ギンマメ（銀豆）」や、アイヌ民族の言葉に由来する「アハ豆」といった別名でも呼ばれています。

形態と生態

ヤブマメの大きな特徴は、その独特な開花と結実の様式にあります。

花

花期は秋、およそ9月から10月にかけてです。葉の付け根から短い総状花序を伸ばし、通常の開花する花を少数つけますが、それとは別に、花弁を持たず自家受粉する閉鎖花を多くつけます。さらにユニークなのは、この閉鎖花が地上だけでなく、地中にも形成される点です。

実（豆果）

豆果は、主にこれらの閉鎖花から形成されます。地上につく豆果は、莢の中に通常3個程度の種子を含みます。一方、地下につく閉鎖花からできる豆果は、地上部のものより大型の種子を一つだけ含んでいます。この地上と地下の両方で実を結ぶ性質は、ヤブマメが厳しい環境でも確実に子孫を残すための戦略と考えられています。

和名の由来

「ヤブマメ」という和名は、その生育環境と形態に由来するとされています。つるを伸ばして藪の中に入り込み、他の植物と絡み合いながら群生する様子から、「藪に生える豆」という意味で名付けられたと考えられています。

分類学上の変遷

ヤブマメの分類は、研究の進展に伴い変更されてきました。かつて著名な植物学者によって、北米に分布する近縁種であるホッグピーナッツ（Amphicarpaea bracteata）の地理的亜種（A. bracteata subsp. edgeworthii）と見なされていました。しかし、その後の花粉の形態分析や分子系統解析といった詳細な研究の結果、両種は遺伝的にも形態的にも明確に区別できることが明らかとなり、現在ではヤブマメは独立した種（Amphicarpaea edgeworthii）として扱われています。

また、かつては形態的な違いに基づいて、ヤブマメ（var. japonica）とウスヤブマメ（薄藪豆、var. trisperma）という2つの変種に分けられていましたが、現在ではこれらを区別せずに単一の種として扱っています。

利用

ヤブマメ、特に地中につく豆果は、かつて日本の先住民族であるアイヌの人々によって重要な食料資源として利用されていました。

食用利用

アイヌ語では、この地下の豆を北海道西部で「アハ（aha）」、北海道東部で「エハ（eha）」と呼んでいました。収穫した豆は、そのまま茹でたり、米や粟などの穀物と一緒に炊き込んだりして食用にしました。

採取

採取は、ヤブマメの生育サイクルに合わせて行われました。地上の茎葉が枯れて地下部に栄養が蓄えられた秋、もしくは植物が活動を始める前の春先に、株の根元を注意深く掘り起こして地下の豆果を探し出しました。特に、雪の下で一冬を越した春に採取される豆は、でんぷんの一部が糖に分解されるためか、甘みが増して美味しくなると伝えられています。アイヌの人々にとって、この地下の豆は、厳しい冬を越すための貴重な栄養源の一つであったと考えられています。

現在では、積極的に食用とされる機会は少ないですが、その独特な生態と伝統的な利用法は、植物と人間の関わりの歴史を示す興味深いうえに重要な事例と言えます。

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