ヤマハ・キュート

ヤマハ・キュート：軽快な走りと可愛らしさを両立した、1980年代の女性向けスクーター

ヤマハ発動機は、1984年6月に女性ユーザーを主なターゲットとしたスクータータイプの原付バイク『キュート』を発売しました。同社のスクーター『パッソル』の後継モデルとして位置づけられ、その軽快な走りと可愛らしいデザインで人気を博しました。現在では生産が終了していますが、当時の軽自動車ブームや女性を取り巻く社会情勢を反映したモデルとして、日本のバイク史において重要な位置を占めています。

コンパクトで軽量、扱いやすい設計

キュート最大の特徴は、そのコンパクトさと軽さです。前後8インチという小径タイヤを採用することで、取り回しやすさを追求。乾燥重量は標準モデルでわずか39kgと、女性でも容易に扱える設計となっています。また、セルスターターが全グレードに標準装備されており、キックスタートを必要としない利便性の高さが魅力でした。エンジン始動の手間が省けることは、特に女性ユーザーにとって大きなメリットであったと言えるでしょう。

軽快な走りを生み出すパワートレイン

搭載されているエンジンは、新設計の空冷2サイクル単気筒エンジンです。片持ちクランク方式を採用することで、軽量化とコンパクト化を実現。最高出力は4.0psと、街乗りでの使用に十分なパワーを発揮しました。駆動方式には、従来のパッソルシリーズで使用されていたオイルバス式チェーンドライブではなく、よりスムーズな走行感を実現するVベルト式オートマチックドライブを採用。変速操作が不要なため、初心者にも扱いやすい設計となっています。

多様なニーズに対応するグレード展開

キュートは、標準モデルの「デラックス」と、フロント部分にキー付きトランクを備えた「カスタム」の2つのグレードで展開されました。デラックスモデルはシンプルで実用的なデザインが特徴で、必要最低限の機能を求めるユーザーに最適でした。一方、カスタムモデルは、フロントトランクの追加により収納力が高められており、買い物や通勤など、多様な用途に対応できる仕様となっています。価格については、デラックスが79,800円、カスタムが89,800円と、当時の経済状況を考慮しても比較的リーズナブルな価格設定でした。

時代のニーズを反映したモデル

キュートは、1980年代の高度経済成長期を経て、女性の社会進出が加速する中で生まれたモデルと言えるでしょう。軽自動車の人気が高まる中、手軽でスタイリッシュなパーソナルな移動手段を求める女性ユーザーのニーズを的確に捉えた点が、キュートの成功の大きな要因の一つです。小型軽量で扱いやすく、デザイン性も高く、そして価格も手頃だったキュートは、多くの女性の心を掴んだ一台であり、日本のバイク史における重要なモデルとして記憶されています。現在では生産を終了していますが、当時のカタログや資料などを参考に、その魅力を改めて振り返ってみるのも良いかもしれません。

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