ヤマハ・EXシリーズ

ヤマハ EXシリーズ シンセサイザー

概要

ヤマハEXシリーズは、1998年2月に最初のモデルであるEX5が発売されたシンセサイザーのシリーズです。坂本龍一がイメージキャラクターを務め、当時バドワイザーのCMでEX5を演奏する姿が放映されました。プロミュージシャンでは、浅倉大介がEXシリーズを主に活用していました。

EXシリーズの特徴は、PCM音源、AN音源、VL音源、FDSP音源という4つの音源を組み合わせたハイブリッド音源です。これにより、多彩な音色と表現力を実現しました。また、ユーザーが自由に波形を取り込めるサンプリング機能も搭載しています。EX5とEX5Rに搭載されたFDSP音源は、PCM音源を直接変調する物理モデルエフェクトで、鍵盤ごとに異なるエフェクトをかけられる画期的なものでした。

EXシリーズは、シーケンサーを内蔵したワークステーション型シンセサイザーであり、最大約3万音の記録が可能です。キーボードモデルには3つのホイールとリボンコントローラが装備され、演奏表現の幅を広げています。物理モデル音源は、米国スタンフォード大学とヤマハが共同で所有するSONDIUS-XG規格のライセンスを受けて開発され、本体にロゴが記載されています。

シリーズのモデル

EX5: シリーズのフラッグシップモデルで、76鍵盤を搭載。最大同時発音数は128音。筐体はブルーで、重量は20kgと重厚でした。
EX5S: EX5のシルバーモデルで、通称「浅倉大介モデル」。EX5同様の性能ですが、背面ロゴデザインが変更されています。生産台数が限られており、希少なモデルです。
EX7: EX5の廉価版として発売され、61鍵盤を搭載。VL音源を省略し、AN音源の同時発音数を1音に減らし、全体の同時発音数を64音に抑えたモデルです。
EX5R: EX5からキーボードを省いたモジュールタイプ。3Uフルラックサイズで、シーケンサーを内蔵しています。ゲーム音楽『Kanon』の楽曲にも使用されました。

評価

EXシリーズは、複数の音源を組み合わせたハイブリッド音源とサンプリング機能という特徴的な要素を持っていました。80年代のDXシリーズ、90年代のSYシリーズに続く機種として登場し、ヤマハのプロ用シンセサイザー市場を再活性化させる期待を背負っていました。EXシリーズ以前のWシリーズはアマチュア向けでしたが、EXシリーズはプロユーザーを意識した設計がされています。

特に、SYシリーズで指摘されていたPCM音源の線の細さを改善し、原波形をサンプリングし直すことで、太く厚みのある音色を実現したことは評価されました。この時期のヤマハは、厚みのある音を追求していたと考えられます。

しかし、内蔵シーケンサーの性能には課題が残りました。Wシリーズの10万音に対して、EXシリーズは約3万音と記録音数が減少しています。カタログには「フレーズをスケッチするため」と記載されていますが、プロの現場では不十分とされました。また、マルチモードでの演奏時に一部のパートが遅れるという問題も指摘されています。

EX5の最大同時発音数は128音ですが、物理モデル系の音源は発音数が少なく、VL音源は1音、AN音源は2音に制限されています。VL音源のエディットも、ユーザーが複雑にならないように、テンプレート方式を採用しています。FDSP音源は鍵盤ごとに異なるエフェクトをかけられるという画期的な機能を持つ一方、DSPチップの性能が低く、十分に性能を発揮できませんでした。

これらの課題から、EXシリーズは当初の期待ほどの販売数を伸ばすことはできませんでした。しかし、EX5で採用されたPCM音源のリファインは、後のS80 / S30、CS6x / CS6R、MOTIFシリーズへとつながる基礎となりました。

EX5で採用されたPCM音源を物理モデル音源で変調するハイブリッド音源は、その後、SCM音源としてCPシリーズやreface CPに搭載され、現代のシンセサイザーにも受け継がれています。

EX5の登場後、コルグはTRINITYシリーズを物理モデル音源を強化したTRINITY V3として再発売しました。このカタログには「融合を超えた音」と記載され、EX5が競合製品として意識されていたことが伺えます。

拡張ボード

mLAN-EX: デジタル音楽データ転送プロトコルmLANに対応するための拡張ボードです。ただし、規格の変更により、後発機種のmLANとの互換性はありません。
EXFLM1/EXFLM2: サンプル波形記憶用のフラッシュメモリーボードです。EXFLM2は海外メーカー製で、2倍の容量を持ちます。
EXIDO1: 4系統の独立アウト端子を増設する拡張ボードです。EX5/EX5Rでは最大8系統、EX7では最大6系統のチャンネルを使用できます。
EXDG01: AES/EBUデジタルアウト端子を搭載した拡張ボードです。
ASIB1: SCSIインターフェースボードで、SCSI対応の外部メディアを使用可能にします。
DRAM SIMM: サンプル波形記憶用の揮発性メモリです。最大65MBまで拡張可能です。

外部リンク

EX5 - ピアノ・鍵盤楽器 - ヤマハ株式会社
MUSIC TRACK EX5紹介動画

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