ヤマハ・XTZ750スーパーテネレ

XTZ750スーパーテネレ：パリダカールラリーを制した伝説のオフロードバイク

1989年、ヤマハ発動機から発売されたXTZ750スーパーテネレは、過酷なラリーレイドのイメージをまとった、世界的に人気を博したオートバイです。その名の由来は、パリダカールラリーの難所として知られるテネレ砂漠にちなみます。しかし、このマシンは単なるラリーレプリカではありませんでした。その誕生には、パリダカールラリー人気を背景とした、新たな市場への挑戦という意図が深く関わっています。

開発秘話：ラリーへの挑戦と市販車の開発

スーパーテネレの開発は、当初、水冷単気筒エンジンを搭載するツーリングマシンとしてスタートしました。しかし、開発途中で上層部から「ラリーで勝てるバイクを開発せよ」との指示が出されます。これにより、開発の方向性は大きく転換し、エンジンは並列2気筒へと変更されました。V型2気筒も検討されましたが、重量バランスや車体長の点から、並列2気筒が最適と判断されました。

前後長のコンパクト化は重要な開発課題でした。そのため、通常は同じ高さに配置されるクランク軸とドライブ軸を意図的にずらして配置するという、複雑な設計を採用しています。これにより、前傾エンジンでありながら、直立エンジン並みの前後長を実現しました。この開発には、当時の二輪開発予算の3分の1という巨額の投資が費やされたと言われています。ライバルとして、既にパリダカで成功を収めていたホンダ・アフリカツインの存在も、開発を後押ししました。

欧州での人気とパリダカールラリーでの活躍

1989年の発売後、XTZ750スーパーテネレは欧州市場で爆発的な人気を獲得します。翌年には、市販車をベースとしたレースマシンでパリダカに参戦し、2位を獲得。そして1991年には、ついに優勝を達成しました。その後も、市販車とは大きく異なる専用レーサーが1998年まで参戦し、幾度となく優勝を重ねました。しかし、ラリーレイドバイクの市場は縮小傾向にあり、1996年にはXTZ750スーパーテネレの販売は終了しました。

欧州での登録台数は36,902台（1989～1998年）、日本では584台（1990～1997年）と、その人気が伺えます。

車両解説：先進的な技術とタフな設計

XTZ750スーパーテネレは、水冷並列2気筒DOHCエンジンを搭載し、1気筒あたり5バルブ（吸気3、排気2）を採用。クランクシャフトは360度クランクで、滑らかな出力特性を実現しています。エンジンは、ヤマハ独自のGENESIS思想に基づいたレイアウトが採用され、エアクリーナーボックスから吸気された空気が、ダウンドラフトキャブレターを経てエンジンに供給される仕組みです。

フレームはダブルクレードルフレームで、メンテナンス性を考慮し、エンジン下部のダウンチューブはボルトで脱着可能な設計となっています。ホイールは前輪21インチ、後輪17インチ。ロングストロークサスペンション（フロント235mm、リア240mm）は、オフロード走行での高い走破性を提供します。燃料タンクは26リットルの大容量で、独特の形状は、左右にガソリンが残るため、燃料コックも左右に配置されています。

ブレーキは、フロントダブルディスク、リアシングルディスク。パッドは250ccオフロード車と共通部品で、オフロードでの制動力は確保しつつ、舗装路での制動距離は必ずしも優れていませんでした。フロントがダブルディスクなのは、大径シングルディスクでは急制動時のハンドル操作が困難になるためです。

パリダカールラリー参戦の歴史：試行錯誤と栄光

ヤマハは、第1回パリダカールラリー(1978-1979)でXT500で優勝。その後もXT550、XT600Zなど、市販車ベースのマシンで参戦を続けます。しかし、1980年代半ば以降、大排気量ツインエンジン搭載マシンの台頭により、ヤマハは苦戦を強いられます。

そこで、ヤマハは開発に着手。XT600テネレを皮切りに、FZ750の4気筒エンジンを搭載したマシンもテストしましたが、砂漠でのトラクション不足や重量増加などの問題から、最終的に並列2気筒エンジンを採用したXTZ750スーパーテネレを開発、パリダカールラリー参戦へと繋がります。

1988年からはワークスマシンとして開発されたYZE750テネレで参戦、1989年には2位を獲得。1990年からXTZ750スーパーテネレをベースにしたマシンで参戦を開始し、ステファン・ペテランセル選手が幾度となく優勝に貢献しました。1990年代前半はヤマハの黄金時代となり、ダカールラリーを席巻しました。その後、レギュレーション変更などに対応しながらも1998年まで参戦し、多くの勝利を収めました。

スーパーテネレの系譜

2010年に発売されたXT1200Zスーパーテネレは、XTZ750スーパーテネレの後継モデルと言えます。

まとめ

XTZ750スーパーテネレは、パリダカールラリーという過酷な舞台で鍛え上げられた技術と、市販車としての高い完成度を両立した、伝説的なマシンです。その開発ストーリーと輝かしい戦績は、多くのライダーに感動と興奮を与え続け、今もなお、多くのファンから愛され続けています。

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