ヤーセン型原子力潜水艦

885型原子力潜水艦について

885型原子力潜水艦（885がたげんしりょくせんすいかん）は、ロシア海軍が運用する先進的な潜水艦です。この艦級は、攻撃型潜水艦（SSN）の役割とともに、巡航ミサイルを発射できる機能を持っており、多用途の能力を備えています。ロシア語では「多用途魚雷・有翼ロケット原潜（MPLATRK）」と称され、計画名は「ヤーセン」（露: ≪Ясень≫、つまり「トネリコ」）です。艦種記号上は「潜水巡洋艦」とされています。

来歴

885型の開発は、ソ連時代から続く潜水艦技術の進展の一環として始まりました。従来の魚雷原潜（PLAT）や有翼ロケット原潜（PLARK）といった異なるタイプの潜水艦を兼ね備える新型艦の需要が高まっていたため、1980年代から検討が行われました。この計画は、1980年に公式に認可され、ラズリート設計局とマラヒート設計局が開発を担当しました。しかし、ソビエト連邦の崩壊などの経済問題により、建造は長期間にわたり遅延し続け、1993年にようやく1番艦の「セヴェロドヴィンスク」の建造が開始されました。

長い年月を経て、2010年に進水し、2014年にようやく就役を果たしました。この間、数回の建造中断や再開がありましたが、885型は遂にロシア海軍の一翼を担う存在となりました。

設計と船体

885型は、その設計において静粛性を重視し、非常に優れた戦術能力を持つ潛水艦として工程が進められました。船体は、971型（アクラ型）の発展型であり、涙滴型の流線型デザインが採用されています。また、艦首に引込式の潜舵や、艦尾に十字型の舵も配置され、流体力学的な性能が追求されています。

艦内は10の区画に分かれ、部分的に複殻構造で設計されています。この船体設計には高張力鋼が使用され、通常潜航深度は520メートル、最大潜航深度は600メートルに達します。

機関と推進システム

885型では、静粛性と信頼性を重視して設計されており、当初は新型の原子炉や蒸気タービンの搭載が計画されていましたが、初号艦ではVM-11原子炉とOK-650V蒸気発生装置が搭載されました。これにより、4万3千馬力の出力を得ることが可能になりました。

また、推進器には7翼のスキュード・プロペラを採用しており、静音性を高めるための設計が施されています。加えて、補助機関として800キロワットのディーゼル発電機と複数の蓄電池が搭載されています。

装備と武器システム

885型は最新のC4ISR技術を搭載し、新型原潜のために開発されたMGK-600「イルトィシュ=アンフォラYa」ソナーシステムを備えています。このソナーシステムは、艦首の大型球形アレイ、側面の平面アレイ、さらに曳航アレイから構成されており、900キロメートルまでの探知能力を持っています。

さらに、885型には533mmの魚雷発射管が左右に計10門装備され、通常の魚雷に加え、対潜ミサイルも使用可能です。特に特徴的なのは、この艦級が初めてミサイルの垂直発射システムを搭載したことで、最大32発のミサイルを搭載できる設計が施されています。

運用と現在の状況

885型の運用開始以降、ロシア海軍はこの艦級を核とした潜水艦戦力の強化を図っています。また、さらなる派生型となる885M型の計画も進行しており、新たな技術や装備の導入が期待されています。

885型原子力潜水艦は、その多用途性と高い戦術能力を兼ね備えた艦として、今後も国際的な海洋戦略において重要な役割を果たし続けることでしょう。

もう一度検索