ヨコバイ

ヨコバイ（横這）

ヨコバイは、カメムシ目ヨコバイ科（学名: Cicadellidae）に属する昆虫の総称です。この仲間はセミに非常に近縁であり、その姿をそのまま小さくしたような外見をしています。実際に、ヨコバイの学名「Cicadellidae」は、セミを意味する「Cicada」に「小さい」という意味の接尾辞「ella」が付いた名に由来しており、「小さいセミ」を意味しています。和名の「横這い」は、これらの昆虫が歩く際に体を横方向へずらしながら移動する独特の習性から名付けられました。

形態

体長は数ミリ程度の小型種が大部分を占めますが、中には1センチメートルを超える大型種も存在します。セミは頭部に3つの単眼を持ちますが、ヨコバイ科の多くは2つの単眼を備えています。ただし、ヒメヨコバイ亜科など、単眼を持たない種も少なくありません。これらの単眼の有無や配置は、ヨコバイ科内の分類、特に亜科レベルの区別において重要な形態的特徴の一つとなっています。翅は通常4枚あり、多くの種が活発に飛翔しますが、中には翅が短く飛べない個体が出現することもあります。体色は緑色や褐色系の地味なものが多い一方で、鮮やかな色彩や複雑な幾何学模様を持つ種も見られ、その多様性は外見にも表れています。

ヨコバイは不完全変態を行う昆虫です。卵から孵化した幼虫は、サナギの期間を経ずに脱皮を繰り返して成虫になります。幼虫は翅を持っていない点を除けば、おおよそ成虫に似た姿をしており、成虫と同様に植物の液汁を吸って成長します。

生態

ヨコバイの幼虫・成虫はともに、植物の茎や葉に口吻を刺し込み、その液汁を吸って栄養を得ます。この食性により、イネなどの農作物や園芸植物に被害をもたらす種も少なくありません。また、一部の種は、汁液を吸う際に植物に有害な病原菌やウイルスを媒介することがあり、植物の病気を引き起こす原因ともなります。

和名の由来となった横にずれて歩く行動は、主に危険を察知した際の警戒行動として観察されます。この動作は、植物の葉や茎の裏側へ素早く身を隠すのに役立ちます。警戒感がさらに高まると、素早く飛び立って逃げ去ります。この横這い行動は、ヨコバイ類だけでなく、近縁のアワフキムシやセミにも見られる共通の習性です。

オスはセミと同様に発音器官を持ち、これを用いてメスを呼び寄せるための求愛信号などを発します。しかし、その音は人間の耳には聞こえにくい極短波のサイクルで振動するため、一般にヨコバイの鳴き声は知られていません。

分布と多様性

ヨコバイ科の昆虫は、南極大陸などを除く全世界の様々な環境に広く分布しています。現在までに学名が付けられた種は約2万種に達しますが、特に熱帯地域を中心に、まだ学術的に記載されていない未発見の種が数多く存在すると考えられています。日本国内でも約550種が確認されていますが、多くの種が小型で外見が酷似していることから、その詳しい生態や分布については未解明な部分も多いのが現状です。平野部から山間部まで、植物が生育している場所であればほとんどの環境で何らかのヨコバイを見つけることができます。都会の街路樹や公園の植え込みなどでも、ツマグロオオヨコバイやオオヨコバイといった大型で目につきやすい種を観察することができます。

人との関わりと天敵

前述のように、多くのヨコバイは植物の汁液を吸うため、農作物や園芸植物の害虫として知られています。特にイネマダラヨコバイや、イネの萎縮病などを媒介するイナズマヨコバイなどは、農業上重要な害虫とされています。また、夜間に灯火に飛来したヨコバイが、偶発的に人体に止まり吸血することがあります。この場合、刺された箇所は蚊に刺されたように腫れ上がり、かゆみを伴う症状が見られることがあります。

一方で、ヨコバイ自体は体が小さく防御手段に乏しいため、自然界には多くの天敵が存在します。鳥類、カエル、トカゲといった脊椎動物はもちろん、クモ、肉食性のカメムシや甲虫類、トンボ、水生昆虫など、様々な無脊椎動物の重要な餌となっています。また、寄生バチなどに卵や体に寄生されることにより命を落とす個体も少なくありません。

分類

ヨコバイ科の分類体系は、研究の歴史の中で変遷をたどってきました。かつて日本では、ヨコバイ類をミミズク科、オオヨコバイ科、ヒメヨコバイ科など、多くの科に細分して扱う傾向が強く見られました。しかし、世界的な分類研究の進展により、現在ではこれらのグループ全体をまとめて Cicadellidae という一つの科として扱うのが一般的となっています。日本国内でも1990年代以降、国際的な分類体系に沿って1科として扱うことが主流となりました。ただし、どのグループを亜科や族として位置づけるかなど、下位分類に関する見解は未だ流動的な部分もあり、研究者間で見解が異なる場合もあります。

分類体系の変更に伴い、和名にも一部混乱が見られます。かつて Cicadellidae 全体に対して「オオヨコバイ科」という和名が用いられていましたが、現在このグループ全体を指す際は「ヨコバイ科」と呼称されます。一方で、その下位分類である亜科の一つ、Cicadellinae に対しては引き続き「オオヨコバイ亜科」という和名が使われており、和名と学名の間でねじれが生じ、やや複雑な状況となっています。ヨコバイ科は非常に多くの亜科に分類され、それぞれが特定の地域や環境に適応した多様な形態や生態を示しています。その詳細な分類や系統関係については、現在も研究が進められています。

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