ライトハウス (映画)

ライトハウス

2019年にアメリカ合衆国で製作された映画『ライトハウス』（原題: _The Lighthouse_）は、監督ロバート・エガース、主演にロバート・パティンソンとウィレム・デフォーを迎えた異色のスリラー/ホラー作品です。この作品は、閉鎖的な環境下での人間の心理的な崩壊を、強烈な映像と音響で描き出しています。

物語の舞台は19世紀末、ニューイングランド沖に浮かぶ孤島です。この島には灯台以外何も存在せず、外界から隔絶された環境で、新たに赴任してきた二人の灯台守が共同生活を送ることになります。一人は経験豊富なベテラン、トーマス・ウェイク（ウィレム・デフォー）。もう一人は過去を隠す謎めいた新人、イーフレイム・ウィンズロー（ロバート・パティンソン）です。四週間の任務期間中、ベテランのウェイクは新人のウィンズローに過酷な雑務を押し付け、容赦なく厳しく監督します。ウィンズローは連日の重労働に加え、島という孤立した環境とウェイクの横暴な態度に精神的に追い詰められていきます。前任者の遺品から見つけた人魚の木彫りがきっかけか、彼は次第に幻想に囚われ、人魚の幻覚を見るようになります。一方、ウェイクは灯台の最上階、神々しい光を放つ光源のある灯室を聖域のように扱い、ウィンズローが立ち入ることを固く禁じます。灯りの強烈な光を浴びて恍惚とするウェイクを、下の隙間から覗き見たウィンズローの目には、それが不気味な怪物のように映るのでした。

任期終了を目前にした夜、二人は初めて互いの内面を語り合い、一時的に心を通わせます。しかし翌日から激しい嵐に見舞われ、迎えの船は到着しません。孤島に閉じ込められ、食料も底を突き始める絶望的な状況下で、非常用にと土中に隠されていた箱を発見しますが、中身は食料ではなく大量の酒でした。酒に溺れるうちに、二人の間の緊張は加速度的に高まり、互いの秘密や隠していた本性が剥き出しになっていきます。ウィンズローは自身の本名がトーマス・ハワードであり、過去に仲間を死なせてその名（イーフレイム・ウィンズロー）を騙って逃亡してきた事実を告白します。また、自身の前任の灯台守がウェイクによって殺害されたのではないかという疑念を深めます。島からの脱出を試みようとしますが、唯一の救命ボートは破壊されており、脱出は不可能となります。追い詰められたウィンズローは、ウェイクが密かにつけていた日誌を盗み読みます。そこには、自分の懸命な働きを嘲笑し、無能だから給料を支払わず解雇するべきだと記されていました。この屈辱的な記述に激怒したウィンズローは、ついに狂気に駆られ、ウェイクを殺害してしまいます。そして、長らく立ち入ることを禁じられていた灯室へと向かいます。そこで彼が一体何を目にしたのか、その真実は明確には描かれませんが、絶叫とともに灯台から転落します。物語は、島に群がるカモメたちによって、墜落したウィンズローが生きたまま食い尽くされるという凄惨な結末で幕を閉じます。

本作の最大の特徴の一つは、その徹底的に作り込まれた独特の映像美にあります。全編が白黒、スタンダード・サイズ（約1.19:1のアスペクト比）で撮影されており、19世紀末という時代設定と登場人物の閉塞した心理状態を強く視覚的に表現しています。撮影にあたっては、当時の銀塩写真、特にオルソクロマティックフィルム特有の暖色への感光が弱い特性や、サイレント期のドイツ表現主義映画などを参考にしています。使用された機材も特徴的で、ペッツパールやバルターといった古いタイプのレンズをパナビジョンカメラに装着し、さらに特定の波長（530nm以上）をカットする特注のフィルターを用いることで、常用フィルムでありながらも深みと独特の陰影を持つモノクロームの画質を実現しました。これにより、人物の肌の質感、島の荒涼とした風景、そして灯台の光が、強烈なコントラストで描き出されています。

製作は2018年に開始され、カナダのノバスコシア州にあるフォーチュー岬やヤーマスなどで撮影が行われました。2019年5月に開催されたカンヌ国際映画祭の監督週間で世界初上映されると、その斬新な表現と俳優たちの演技に対し、批評家から熱狂的な支持を受けました。特に国際映画批評家連盟賞の独立選出部門を受賞するなど、高い評価を獲得しています。主要な映画レビューサイト「Rotten Tomatoes」では98%という極めて高い支持率を記録しており、ロバート・エガース監督の才能を確固たるものとする作品となりました。

『ライトハウス』は、閉鎖空間における人間関係の崩壊、狂気、そして神話的・象徴的な要素が混じり合った、観る者に強烈な心理的インパクトを与える作品です。視覚的、聴覚的にも唯一無二の世界観を持ち、単なるホラーやスリラーに留まらない、アート性の高い作品として国内外で高く評価され、語り継がれています。

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