ライトバス・ニュールートマスター

ニュールートマスター：ロンドンのアイコン、現代に蘇る

ニュールートマスター（New Routemaster）は、ロンドンの象徴である2階建てバス、ルートマスターを現代に蘇らせた車両です。当初は「ニュー・バス・フォー・ロンドン（New Bus for London、NB4L）」と正式名称で呼ばれていましたが、「ボリスマスター（Borismaster）」や「ボリスバス（Boris Bus）」という愛称でも親しまれています。これは、導入を主導した当時のロンドン市長、ボリス・ジョンソンにちなんだものです。

このバスは、オリジナルのルートマスターが持っていた開放式の後部プラットフォームを継承しつつ、現代のバスに求められる完全なアクセシビリティを実現しました。デザインはトーマス・ヘザーウィックが担当し、製造はライトバス社が手がけ、2012年2月27日から運行を開始しました。

ルートマスターの歴史と新型導入の背景

オリジナルのルートマスターは、運転手と車掌が乗務し、開放式の後部プラットフォームを備えたロンドンバスの標準でした。しかし、後に登場したワンマン乗務の車両が普及したため、ロンドン市長ケン・リヴィングストンは2005年末にヘリテージ・ルート2路線を残してルートマスターを退役させました。

ルートマスターの退役は、2008年のロンドン市長選挙の争点となり、新型ルートマスターの導入を公約に掲げたボリス・ジョンソンが当選しました。2008年に設計案の公募が行われ、2009年末にライトバス社の案が選定されました。そして、2010年5月に最終案が発表されました。

新型バスは、後部プラットフォームの利用とアクセシビリティ確保のため、3つのドアと2つの乗降階段を備えています。旧型のルートマスターとは異なり、後部プラットフォームは閉鎖可能で、ワンマン運行にも対応できます。

構造と機能

ドアは前部、中央部、後部の3箇所に設けられ、前部と後部のドアは上部デッキへの階段に繋がっています。後部乗降口は、ルートマスターと同様にプラットフォームと手摺りを備え、車掌が乗車している場合は「ホップオン・ホップオフ」が可能です。オイスターカード読み取り機は3つの乗降口すべてに設置されていますが、車掌は料金を扱うことができないため、他の切符や現金は運転手に提示する必要があります。

しかし、2013年8月現在、経費削減のため一部路線では後部ドアが締め切られており、後部からの乗降はできません。この状況は問題視されていますが、一部路線では後部からの乗降が可能です。

車内には新しい模様のモケットが採用され、LED照明、温度調節機能付き換気システムが搭載されています。

駆動方式にはハイブリッドシステムが採用され、ディーゼルエンジン発電機と回生ブレーキにより充電されたバッテリーパックで電動機を駆動します。ディーゼルエンジンはバッテリー充電が必要な場合にのみ作動することで、低公害性と低燃費を実現しています。

オリジナルルートマスターの歴史と背景

オリジナルのルートマスターは、1947年に設計が開始され、1956年から1968年にかけて2,800台が生産されました。頑丈な設計により、ルートマスターは代替となるはずだった新しいバスよりも長く使用され、2005年12月までロンドンの定期旅客輸送で活躍しました。

2000年12月31日以降、イギリス国内に納入されるバスには、車椅子での乗降が可能な低床バスの開発を義務付ける障害者差別禁止法（Disability Discrimination Act 1995）への適合が求められました。ロンドン交通局（Transport for London：TfL）は車両の刷新に着手しましたが、ルートマスターは車椅子での乗降ができない車両として取り残されていきました。

ケン・リヴィングストン市長は、当初はルートマスターを限定的に維持する意向でしたが、後にロンドンのバス車両をすべて近代的なものに置き換える方針に転換しました。事故のリスク、ワンマン運行によるコスト削減、乗客の近代的なバスへのニーズなどが、ルートマスターの引退を後押ししました。

FRMとXRM：ルートマスターの試行錯誤

1960年代には、リアエンジン・前部乗降口型のルートマスターを設計する試みとして、FRM（Front-entrance RouteMaster）が製作されました。しかし、単一ドアや機械的な故障から「先詰まり」と判断されました。

1970年代には、自動料金徴収に適した低床バスXRM（eXperimantal RouteMaster）が計画されましたが、実験結果が思わしくなく、1980年に計画はキャンセルされました。

1989年には、後部乗降口とハーフキャブといった外観を持つ新たな設計案が出されましたが、これはイギリスの他の地域では時代遅れとみなされたものでした。

新型ルートマスターの設計プロセス

2007年、当時のロンドン市長候補であったボリス・ジョンソンは、近代的なルートマスターの導入を表明しました。自動車雑誌『オートカー』誌は、キャポコ社に新世代ルートマスターの詳細な提案を依頼しました。このRMXLという設計案は、軽量なアルミニウム製スペースフレーム構造のハイブリッドバスで、旧型よりも多くの乗客を収容できました。

2008年の市長選挙で当選したジョンソンは、新型ルートマスター開発のための公式設計公募を実施しました。理想カテゴリーとデザインカテゴリーに分けられ、様々な提案が寄せられました。

デザインコンペと最終設計

理想カテゴリーでは、後部開放式プラットフォームを備えた2階建てバスの独創的な提案が求められ、デザインカテゴリーでは、具体的な設計が求められました。多くの応募の中から、キャポコ・デザインとフォスター・アンド・パートナーズ/アストンマーティンの共同提案が最優秀賞に選ばれました。

その後、TfLはバスメーカーに最終設計を依頼し、入札が行われました。2009年、ライトバス社が次世代ルートマスターの製造契約を獲得しました。このバスは、ハイブリッド方式を採用し、低燃費、低公害を実現しました。

2010年、ライトバス社から斜めに横切る非対称のガラスを特徴とする新型ルートマスターの最終設計案が公開されました。このデザインは、ロンドンのアイコンとなるべく、知的財産局に意匠登録されています。

生産と運行

2010年に静止モックアップが公開され、2011年には試作車が披露されました。最初の新型バスは2012年2月27日に第38系統で運行を開始しました。

新型バスは、3つのドアと2つの階段を備えており、スムーズな乗降を促進する目的で設計されました。これはロンドンでは初めての試みではありませんが、国外ではベルリンなどで同様のバスが運行されています。

所有と入札

ロンドンバスは、路線ごとに7年ごとに入札が行われ、運行事業者が決定します。バスは運行事業者が所有またはリースしますが、使用されなくなった車両は他の事業者に転属することもあります。

TfLは、運行事業者に新型バスへの全面的な切り替えを要求することは困難であると認識しています。また、リース会社が車両を保有するなどして運行会社のリスクを軽減する必要があるとも指摘しています。

メディアでの紹介

新型ロンドンバスの発表を受け、BBC Oneの番組でロンドンの2階建てバスの歴史が紹介されました。また、『Autocar』誌は、新型バスを「公共交通機関の中で最高のもの」と評し、そのハイブリッド方式の動力源と内装を高く評価しました。