ラジ・リ

ラジ・リ：パリ郊外のリアリティを映し出す映画作家

ラジ・リ (Ladj Ly) は、1978年1月3日、マリ共和国生まれのフランスの映画監督、脚本家、俳優です。3歳の時に家族と共にフランスのパリ郊外モンフェルメイユに移住し、そこで幼少期を過ごしました。父親は清掃夫、母親は専業主婦という家庭環境で育ちました。

彼の映画制作への道は、1995年に友人であるキム・シャピロンとロマン・ガヴラスが設立したアーティスト集団「クルトラジメ」への参加から始まります。1997年には、初の監督作品となる短編映画『モンフェルメイユ・レ・ボスケ』を制作。その後も精力的に作品を制作し続け、2005年に発生したパリ郊外暴動をきっかけに、社会問題への関心を深めていきます。

2007年には、ドキュメンタリー映画『365ジュール・ア・クリシー＝モンフェルメイユ』を発表。この作品は、暴動の背景にある社会問題を鋭く捉えたものとして注目を集めました。その後も、ドキュメンタリー映画『ア・ボワ・オート -ラ・フォルス・ド・ラ・パロル-』(ステファン・デ・フレイタスとの共同監督) などを制作し、セザール賞にノミネートされるなど、高い評価を得ています。

ラジ・リのキャリアにおいて、大きな転換点となったのは2017年に制作した短編映画『レ・ミゼラブル』です。この作品はクレルモン＝フェラン国際短編映画祭でCanal+賞を受賞、セザール賞にもノミネートされ、彼の才能を広く知らしめました。そして、2019年、満を持して監督した長編映画『レ・ミゼラブル』は、ヴィクトル・ユーゴーの名作を彷彿とさせるタイトルで、現代フランス社会の格差や暴力といった問題を、モンフェルメイユを舞台にリアルに描き出しました。

この作品は、第72回カンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞し、第45回セザール賞では作品賞、観客賞など4冠を獲得、第92回アカデミー賞では国際長編映画賞にノミネートされるなど、世界的な成功を収めました。 『レ・ミゼラブル』は、ラジ・リ自身の生い立ちや、長年彼が見てきたパリ郊外の現実が反映された、力強いメッセージを持つ作品と言えるでしょう。

ラジ・リは、監督業だけでなく俳優としても活動しており、キム・シャピロン監督の『変人村』、ロマン・ガヴラス監督の『ル・モンド・エ・ア・トワ』などに出演しています。また、写真家JRによる写真集『28 millimètres: Portrait d’une generation』では文章を担当するなど、多様な活動を通じて、現代フランス社会のリアルな姿を表現し続けています。

彼の作品は、社会の闇や格差を描きながらも、希望や人々の強さも見据えている点が特徴です。ラジ・リは、映画を通して、社会問題への意識を高め、人々の心を揺さぶる、現代フランスを代表する映画監督の1人と言えるでしょう。2023年には長編映画『バティモン5』を監督しました。今後も彼の作品から目が離せません。

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