ラッピーパイ

ラッピーパイ：カナダのアカディア料理

ラッピーパイ（英: rappie pie）は、カナダのノバスコシア州、ニューブランズウィック州、一部のプリンスエドワードアイランド州で親しまれている伝統料理です。別名ラピュアパイ、ラペ、ラピュアとも呼ばれ、フランス語の「すりおろす」を意味するrâpéeが語源となっています。

一般的なパイとは異なり、ラッピーパイはキャセロール料理の一種です。すりおろしたジャガイモを丁寧に濾し、余分な水分を絞り、代わりにチキンブロスを吸わせることで、独特の食感を実現しています。この下準備されたジャガイモをオーブン皿に敷き詰め、様々な具材をのせ、さらにすりおろしたジャガイモで覆って焼き上げます。

具材は実に多様性に富んでおり、鶏肉、豚肉、ラード、鹿肉、塩漬け肉、貝、タマネギなど、地域や家庭によって様々なバリエーションがあります。カリッとした表面とは対照的に、中はねっとりとした、糊のような、あるいは濃いポリッジのような独特の食感です。焼きあがった後には、糖蜜、バター、ラード、アップルソースなどを添えることもあります。

ラッピーパイは、誕生日や特別な祝い事など、特別な機会に食卓を飾る料理です。その手間のかかる工程から、近年では市販のすりおろしたジャガイモのミックスを使う家庭も増えています。しかし、その伝統的な製法と味わいは、アカディア人の歴史と文化を象徴する大切な料理として、大切に受け継がれています。

ラッピーパイの歴史：アカディア人の苦難と工夫

ラッピーパイの起源は、18世紀半ばに起きたアカディア人の追放に遡ると考えられています。フランス系移民であるアカディア人は、当時イギリス領であったノバスコシアからアメリカのマサチューセッツ州へと強制移住を余儀なくされました。この強制移住は、異なる移民集団間の交流を促し、それぞれの料理文化が融合するきっかけとなりました。

ジャガイモをすりおろして料理に用いるという技法は、ドイツ系またはスイス系の移民からアカディア人に伝えられたと考えられています。追放令が解除された後、ノバスコシアや沿海州に帰還したアカディア人にとって、この調理法は貴重な食文化となりました。しかし、帰還した彼らが待ち受けていたのは、国王派に奪われた肥沃な土地でした。

残されたのは、石が多く痩せた土地だけでした。しかし、そのような土地でもよく育つジャガイモは、アカディア人にとって救世主となりました。彼らは、その土地で手に入る狩猟肉と、手に入りやすいジャガイモを組み合わせ、ラッピーパイを生み出しました。この料理は、アカディア人の困難な歴史と、厳しい環境の中で培われた創意工夫を物語っています。ラッピーパイは、単なる料理を超えて、アカディア人のアイデンティティと文化の象徴となっているのです。

関連料理

ラッピーパイは、すりおろしたジャガイモを使った料理という点で、いくつかの料理と共通点があります。

グラタン (Gratin): フランス料理の調理技術で、オーブンで焼き上げる料理全般を指します。ラッピーパイも、オーブンで焼き上げる点でグラタンと共通点があります。
レシュティ (Rösti): スイスの国民食で、すりおろしたジャガイモを材料とする料理です。ラッピーパイと同様に、すりおろしたジャガイモが特徴です。
* ホットディッシュ (Hot dish): アメリカ中西部の北部地域で食べられているキャセロール料理です。ラッピーパイと同様に、オーブンで焼き上げるキャセロール料理という点で共通しています。

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