ラブストーリーズ

ラブストーリーズ：愛と喪失、そして再生の物語

ネッド・ベンソン監督による映画『ラブストーリーズ』（原題：The Disappearance of Eleanor Rigby）は、同じ物語を男女それぞれの視点から描いた3部作で構成されています。それぞれ『コナーの涙』（Him）、『エリナーの愛情』（Her）、そして両者を統合した『Them』です。

ジェシカ・チャステインとジェームズ・マカヴォイが演じるのは、コナーとエリナーという夫婦。二人は幼い息子を亡くした悲しみを抱え、互いのすれ違いから破局へと向かいます。『コナーの涙』では男性コナーの視点、『エリナーの愛情』では女性エリナーの視点から物語が展開されます。共通のシーンも、台詞や表情、服装などに微妙な差異があり、男女の主観的な記憶や世界観の違いが巧みに表現されています。

どちらの作品から鑑賞しても成立する構成ですが、先にどちらを観るかで、物語の印象が大きく変わるのが特徴です。両作品は互いに補完しあい、全体像を理解するには両方を見ることをお勧めします。一方、『Them』は『コナーの涙』と『エリナーの愛情』を時系列に沿って再編集した作品で、日本では劇場公開されず、DVDに特典として収録されています。

コナーの涙：失われた時間と再生への一歩

『コナーの涙』では、レストラン経営者のコナーが、妻エリナーとの破綻した関係と向き合う姿が描かれます。レストランでの出来心から始まった食い逃げ、そして妻の失踪。コナーは、エリナーの不在の中で、自身の過ちや、失った息子への想いと向き合い、次第に新たな一歩を踏み出そうとします。親友や、レストランの従業員との関係、そしてエリナーの両親との出会いを通して、コナーは自分自身を見つめ直し、新たなスタートを切ろうとします。

物語は、過去の楽しい思い出と、現在の苦悩が交互に描かれ、観る者に深い感情移入を促します。コナーの葛藤、後悔、そして再生への小さな希望が丁寧に描写され、複雑な人間の感情をリアルに表現しています。クライマックスでは、再会を果たすも、再び別れの時を迎える夫婦の姿が、静かにそして深く心に響きます。

エリナーの愛情：心の傷と未来への選択

『エリナーの愛情』は、妻エリナーの視点で物語が展開します。夫コナーとの関係の破綻、息子の死という大きな悲しみ、そして自身の心の傷と向き合うエリナーの姿は、静かで繊細なタッチで描かれています。大学への復学、教授との出会い、そして旧友との再会。エリナーは、失意の中で少しずつ前を向いていきます。

コナーとの再会、そして激しいやり取り。過去の思い出と、現在の現実が交錯する中で、エリナーは自分の心を深く見つめ直し、未来を選択していきます。家族との関係、そして自分自身のアイデンティティを探求する旅は、観る者の共感を呼びます。物語のラストシーンでは、新たな決意を胸に、エリナーが未来に向かって歩み始める姿が印象的です。

Them：全体像を映し出す一枚の絵

『Them』は、コナーとエリナーの物語を時系列に沿って再構成した作品です。両方の視点から描かれた物語を統合することで、より深く、より立体的な二人の関係性が明らかになります。それぞれの視点で描かれた差異や、隠された感情が明らかになることで、物語の奥深さをより感じることができるでしょう。

製作背景

監督のネッド・ベンソンは、主演のジェシカ・チャステインとの交際経験から、男女双方の視点を取り入れた物語を構想したと言われています。2012年の夏、ニューヨークで約40日間の撮影が行われ、カンヌ国際映画祭やトロント国際映画祭で上映された後、高い評価を得ました。サン・ラックスによる音楽も、登場人物の感情を繊細に表現し、作品の世界観をさらに豊かにしています。

評価

『ラブストーリーズ』は、批評家から高い評価を受けており、ジェシカ・チャステインとジェームズ・マカヴォイの演技は特に称賛されています。愛と喪失、そして再生という普遍的なテーマを、独特の視点と繊細な演出で描いた本作は、観る者の心に長く残る感動的な作品と言えるでしょう。

もう一度検索