ラ・ティラナ (王立サン・フェルナンド美術アカデミー)

ラ・ティラナ

『ラ・ティラナ』は、スペインの巨匠フランシスコ・デ・ゴヤが1799年から1800年の間に制作した油彩の肖像画です。この作品は、当時人気を博していた舞台女優、マリア・デル・ロサリオ・フェルナンデスを描いており、現在はマドリードの王立サン・フェルナンド美術アカデミーに所蔵されています。また、この作品とは異なる別バージョンも存在し、個人コレクションに収蔵されています。

マリア・デル・ロサリオ・フェルナンデスの生涯

マリア・デル・ロサリオ・フェルナンデス、愛称「ラ・ティラナ」は、1755年にフアン・フェルナンデス・レボレドとアントニア・ラモスの娘として生まれました。1773年にマドリードの王立劇場で演技のキャリアをスタートさせ、夫である俳優フランシスコ・カステヤノスが名付けた「エル・ティラノ」が由来となる愛称で広く知られるようになりました。彼女は活動初期にバルセロナなどで巡業し、次第に名を上げていきました。

その後、彼女はマヌエル・マルティネスの劇団でトップ女優として活躍し、ラ・クルツ劇場やプリンシペ劇場でのパフォーマンスが高く評価され、著名な作家リチャード・カンバーランドやレアンドロ・フェルナンデス・デ・モラティンからも称賛を受けました。演劇を愛してやまなかったゴヤは、彼女の姿を2度もキャンバスに収めています。しかし、1797年に健康を害し舞台から離れ、1803年に55歳で逝去しました。

作品の特徴と影響

『ラ・ティラナ』では、堂々とした姿勢で立つマリアが描かれ、エレガントな白ドレスに金刺繍の施された赤いストールをまとっています。また、彼女は当時流行していた白い靴を履き、宝飾品を身に着けており、その美しさを際立たせています。背景には、宮殿の庭園へと続く鉄製の欄干や噴水が描かれ、その景観が作品に奥行きを与えています。画面の左下にはモデルの名前や署名、制作年が記され、構図はアントン・ラファエル・メングスの『リャノ侯爵夫人イザベル・デ・パレーニョ・イ・アルセの肖像」や、ゴヤ自身の王妃マリア・ルイサの肖像画を彷彿とさせるものです。

この肖像画は、彼女のいとこであるマリア・テレサ・ラモスによって1816年に王立サン・フェルナンド美術アカデミーに寄贈されました。

別バージョンの存在

『ラ・ティラナ』の別バージョンは、本作の5年前に描かれたもので、優雅な白いドレスに胸を覆うショールをまとった半身像が特徴です。この作品は元々ビリャゴンサロ伯爵家のコレクションにありましたが、現在は個人の手に渡っています。

文化的影響

この作品の影響は広範で、風刺画家マヌエル・トーバーは1919年に雑誌『ラ・ノベラ・テアトラル』のためにマリア・デル・ロサリオ・フェルナンデスを描いた表紙イラストを手掛け、彼女の存在感を再びクローズアップしました。

まとめ

『ラ・ティラナ』は、ゴヤの才能と彼の時代の文化を象徴する作品であり、マリア・デル・ロサリオ・フェルナンデスの美しさと舞台での存在感が際立って描かれています。今後もこの作品が美術史の中で重要な位置を占めることは間違いありません。

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