ラード (ミサイル)

ラード（Ra'ad）巡航ミサイル

概要

ラード（Ra'ad）は、ハトフ8（Hatf VIII）としても知られる、パキスタン・イスラム共和国によって開発・運用されている先進的な空対地巡航ミサイルシステムです。

この兵器は、パキスタン空軍（PAF）と、同国の科学技術研究開発を担う主要機関である国家技術科学委員会（NESCOM）が共同で推進したプロジェクトの成果として生まれました。

航空機から発射される形態をとることで、地上発射型に比べて広範囲の目標を攻撃することが可能となり、運用上の柔軟性が高められています。

特徴（マークI）

初期生産型であるラード・マークI（Ra'ad-I）は、その設計において優れたステルス性を考慮しており、敵のレーダーや防空システムによる探知を困難にすることを狙っています。これにより、敵の警戒網を効果的に回避し、目標に接近する能力が向上しています。

搭載可能な弾頭の種類に関しても特筆すべき点があり、通常弾頭に加え、核弾頭を搭載できる能力を有しています。このデュアルキャパビリティにより、戦術的な目標に対する精密通常攻撃から、より広範な破壊を伴う戦略的な核攻撃まで、多様なシナリオに対応できる潜在力を持っています。

発表されている最大射程距離は350キロメートルです。この射程により、発射母機である航空機を敵の主要な防空システムが及ばない安全圏または比較的危険度の低い空域に留めながら、遠方の目標を攻撃することが可能となります。

主な攻撃対象としては、敵の指揮・統制施設（C2）、警戒レーダーサイト、移動または固定された重要な標的、そして海上を航行する軍艦などが想定されています。これらの戦術的・戦略的に価値の高い目標に対し、高精度な誘導システムを用いて精密な攻撃を加えることを目的としており、被害を限定しつつ効果的な打撃を与えることを目指しています。

開発経緯と試験

ラード巡航ミサイルの開発過程では、実用化に向けた一連の飛行試験が重ねられました。

2007年8月25日には、パキスタン軍によって初めての飛行試験が実施され、その成功が発表されました。これは、新型ミサイルが基本的な飛行性能や誘導能力を実証した重要な節目となりました。

続く開発段階では、実際の運用を想定した試験が行われました。特に、パキスタン空軍が装備するフランス製ダッソー・ミラージュIII戦闘機からの発射試験が、2008年5月8日および2011年4月29日に実施されました。これらの試験は、既存の航空機への適合性や、空中からの発射・飛翔性能を確認するために不可欠なプロセスでした。

公表されている情報によると、2016年1月19日までの間に、ラード巡航ミサイルの飛行試験は累計で7回実施されています。これらの繰り返し行われた試験を通じて、ミサイルの性能や信頼性が検証され、実戦配備に耐えうる品質へと改良が進められたと考えられます。

最新型（マークII）

2017年には、パキスタン軍が開催した軍事パレードにおいて、ラード巡航ミサイルの改良型であるラード・マークII（Ra'ad-II）が初めて公に姿を現しました。

この最新型であるマークIIは、先行するマークIからの最大の改良点として、特に射程性能の大幅な延伸が挙げられます。発表によると、マークIIの最大射程は600キロメートルに達しており、これはマークIの350キロメートルから約1.7倍の伸長となります。

射程の延伸は、パキスタン空軍の攻撃能力、特にスタンドオフ（敵の防御圏外からの攻撃）能力を劇的に向上させる意味を持ちます。より遠方から敵の深部に位置する目標を攻撃できるようになり、また発射母機がより安全な空域で作戦遂行できるため、母機の損耗リスクが低減されます。

マークIIが射程以外の性能面（例えばステルス性のさらなる向上、誘導システムの精度向上、抗妨害能力など）においてマークIからどのような改良が施されているかについての詳細は、公開情報からは十分に把握できませんが、一般的に新型の開発においては総合的な性能向上が目指されることが多いです。

まとめ

ラード巡航ミサイルは、パキスタンが自国の防衛力強化、特に敵領域内への長距離精密攻撃能力や戦略的抑止力を高めるために開発した重要な航空兵器システムです。空中発射方式、優れたステルス設計、通常弾頭と核弾頭の両方に対応する能力、そして最新型における大幅な射程延伸といった特徴は、南アジア地域における軍事的なバランスや安全保障環境に一定の影響を与える要素と考えられます。パキスタンの軍事技術開発における主要な成果の一つとして、今後のさらなる改良や実戦配備・運用状況が引き続き注目されるミサイルと言えるでしょう。

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