リシチャンシクの戦い

リシチャンシクの戦いは、2022年のロシアによるウクライナ侵攻における、ドンバス地方での重要な軍事衝突です。この戦いは、セベロドネツクの戦いに続く形で展開され、ロシア軍がルハーンシク州全域の制圧を目指す上で、重要な局面となりました。

背景

リシチャンシクとセベロドネツクは、ドネツ川を挟んで対峙する都市です。リシチャンシクは丘陵地に位置し、ウクライナ軍にとって有利な地形でした。しかし、ロシア軍は4月から重砲による攻撃を開始し、5月にはルハーンシク州におけるウクライナ軍の最後の拠点となりました。セベロドネツクの戦いで両都市を結ぶ橋が破壊された後、ウクライナ軍はより強固な防御を築いていました。

6月に入ると、ロシア軍は南部で突破口を開き、トシュキウカを占領。リシチャンシク南部への圧力を強めました。6月23日には、ロスクティフカなどの複数の集落を制圧し、ヒルスケとゾロテを包囲。セベロドネツク陥落後、ロシア軍はリシチャンシクに攻撃の焦点を移しました。

戦闘経過

セベロドネツク陥落後、リシチャンシクはウクライナが支配するルハーンシク州最後の主要都市となり、ロシア軍とルガンスク人民共和国（LPR）の部隊による攻撃が開始されました。ロシア軍は、砲撃と空爆を駆使し、LPR軍を支援しました。

6月15日、ウクライナは民間人の避難のために人道回廊を要求しましたが、ロシアはこれを拒否し、自国支配地域への避難を主張しました。6月16日には、市内で大規模な空爆が発生し、多くの建物が破壊され、市民に死傷者が出ました。

リシチャンシク軍政によると、侵攻前には9万5千人いた人口のうち、1万から1万5千人が市内に残っていました。避難は困難で、1日あたり約50人しか避難できませんでした。LPRの軍将校は、市内からの避難経路を遮断したと主張しました。

6月25日、ロシア軍は市内中心部から南西約10kmにあるリシチャンシク石油精製所を占拠し、陣地を強化しました。ウクライナ国家親衛隊は、リシチャンシクの防御はセベロドネツクよりも容易であると強調しましたが、ロシア軍は南部から侵入し、鉱山やゼラチン工場に到達しました。

6月26日、ロシア軍とLPR軍は5方向から都市に侵入し、ウクライナ軍の孤立を試みました。ウクライナ軍は、ロシア軍の砲撃が南部からの遮断を目的としていると警告しました。民間人の避難が命じられ、避難民はリシチャンシクの状況を「恐ろしい」と表現しました。

6月28日、LPRはウクライナ軍が市内から撤退し始めたと主張しました。6月29日、ウクライナのルハーンシク州知事は、ロシア軍が郊外に侵入したが、市内では戦闘は起きていないと述べました。同日、ウクライナ軍はルハーンシク州で「最大10回」の空爆を行い、ロシア軍の兵站センターなどを攻撃したと報告しました。

6月30日、リシチャンシク郊外での戦闘は激化し、ロシア軍は石油精製所の攻撃で「部分的な成功」を収めました。ロシア軍は、トポリクヴァ村など周辺地域への攻撃も進め、トポリフカとリシチャンシク間の道路を射撃統制下に置きました。市内の状況は「ぞっとするほど無差別な」砲撃によって悪化し、市街の60%が廃墟になったと報告されました。

7月1日までに、ロシア軍はリシチャンシクとバフムートを結ぶ高速道路を遮断しようとし、鉱山とゼラチン工場、プリビリアを占領したと主張しました。ロシア軍は、ウクライナ軍の脱走と損失が増加していると主張しましたが、これらの主張は独立して検証されませんでした。

リシチャンシク陥落

7月2日、リシチャンシクへの絶え間ない砲撃が続き、ロシア軍は包囲を完了させたと主張しました。その後、ロシア軍がリシチャンシク中心部に到達したとの情報が流れ、同日午後には、ロシア軍とLPR軍が都市を制圧したと発表しました。ISWは、この発表を認め、ウクライナ軍の撤退後に制圧された可能性が高いと述べました。

7月3日、ウクライナ大統領顧問はリシチャンシクがロシア軍に制圧される恐れがあることを認め、ルハーンシク州知事はロシア軍が「不可解な残忍な戦術で」攻撃していると述べました。ロシア国防相は、プーチン大統領にリシチャンシクの完全制圧を報告し、LPRは「ウクライナの民族主義者からの解放」を宣言しました。

7月3日午後、ウクライナ軍参謀本部はリシチャンシクからの撤退を認めましたが、ゼレンスキー大統領は都市の完全占領を否定しました。7月4日、ゼレンスキー大統領は撤退を認めましたが、「戦術と最新兵器の供給増によって、我々は戻ってくる」と強調しました。

2022年9月時点で、戦闘は継続しており、ウクライナ軍がいくつかの集落を解放しています。

死傷者

5月25日までに、リシチャンシクでの戦闘と砲撃で150人の民間人が死亡しました。6月には、ロシア軍の空爆が頻繁に発生し、多くの建物が破壊され、市民が死傷しました。

6月27日には、給水中だった群衆にロシアのロケット弾が直撃し、少なくとも民間人8人が死亡、42人が負傷しました。この攻撃はクラスター爆弾で行われたと報告されており、ロシア軍がリシチャンシク周辺で禁止兵器の対人地雷を使用しているとの報告もありました。

侵攻前には、リシチャンシク市には9万5千人が住んでいましたが、6月28日までに、約1万5千人の民間人が市内に残っていました。彼らは、親ロシア派、家財を守るために残った人、避難が遅れた人、避難を望まなかった高齢者などでした。

分析

BBCの防衛特派員は、リシチャンシクの高地がウクライナ軍に有利な防御を提供すると当初期待されていたものの、ロシア軍の包囲と火力により、ウクライナ軍は完全に封鎖される前に撤退せざるを得なかったと分析しています。ウクライナ当局は、作戦上の理由から、撤退について沈黙を守っていたとされています。

脚注

この戦いでは、多くの民間人が犠牲となり、都市は大きな被害を受けました。リシチャンシクの陥落は、ロシアによるウクライナ侵攻における重要な転換点の一つであり、ルハーンシク州全体がロシア軍の支配下に置かれる結果となりました。

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