リチャード・クック (ジャズ・ライター)

リチャード・デイヴィッド・クック（Richard David Cook、1957年2月7日 - 2007年8月25日）は、イギリスを代表する音楽ジャーナリストであり、編集者、そして多才な音楽関係者でした。サリー州キューに生まれ、ロンドンを拠点に活動しました。

クックの著作の中でも、最も広くその名を知らしめたのは、批評家ブライアン・モートンとの共著によるガイドブック『The Penguin Guide to Jazz on CD』です。この膨大な量のディスク・ガイドは、ジャズのアルバムを詳細にレビューし、格付けしたもので、版を重ねるごとに改訂・増補され、世界中のジャズ愛好家や研究者にとって必携の書となりました。また、マイルス・デイヴィスに深く切り込んだ『It's About That Time: Miles Davis On and Off the Record』や、『Richard Cook's Jazz Companion』などの単著も高い評価を受けています。特に、ジャズの名門レーベルの歴史を綴った『ブルーノート・レコード ― 史上最強のジャズ・レーベルの物語』は日本でも翻訳出版され、多くの読者に親しまれています。これらの著作は、クックのジャズに対する深い愛情、広範な知識、そして鋭い批評眼を示すものです。

クックは1970年代後半から音楽ライターとしてのキャリアをスタートさせました。当初はロック専門誌のNMEで主要な寄稿者として活躍しましたが、次第にジャズ批評へとその活動の場を移し、The Sunday Times紙で定期的にジャズに関する記事を執筆しました。晩年にはNew Statesman誌にも寄稿するなど、その執筆活動は多岐にわたりました。

ジャーナリストとしてだけでなく、編集者としても重要な役割を果たしました。イギリスの先鋭的な音楽誌として知られるWIREが、フリー・ジャズを中心に扱っていた時期に編集長を務め、その独特な誌面づくりを牽引しました。さらに、1998年に創刊されたジャズ専門誌Jazz Reviewでも創刊時から編集に携わり、その紙面の方向性や精神的な支柱となりました。彼の亡き後も、Jazz Review誌はクックが培ったインスピレーションを受け継いで刊行され続けています。

また、クックは音楽業界の実務にも深く関わりました。ポリグラムUK（後にユニバーサルミュージックに統合）において、同社のジャズ・カタログのマネージャーを務めた経験を持ちます。この職務の中で、トランペット奏者ガイ・バーカーのレコード・プロデュースを手がけるなど、制作側としても活動しました。ポリグラム在籍時には、過去の優れたブリティッシュ・ジャズ作品を復刻するシリーズ「Redial」を創始しましたが、残念ながらこのシリーズは短命に終わりました。さらに、インディペンデント・レーベルであるCodanza Recordsから2002年にリリースされた、アバンギャルド・ピアニスト、セシル・テイラーの1990年のライブ録音を収録した10枚組限定盤CDボックスセット『2Ts for a Lovely T』の責任者を務めるなど、意欲的なプロジェクトにも尽力しました。

活字媒体やレコード業界での活動に加え、クックはメディアを通じてジャズの普及にも努めました。BBCやロンドンのローカルラジオ局GLRで自身のジャズ番組を持ち、幅広いリスナーに向けてジャズの魅力を伝え続けました。

リチャード・クックは、2007年8月25日、癌との闘病の末、ロンドンで惜しくもこの世を去りました。享年50歳でした。ジャズ批評家、編集者、プロデューサーとして、多角的な視点からジャズに光を当て続けた彼の功績は、今なおジャズ界において重要な意味を持ち続けています。

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