リチャード・パイプス

リチャード・パイプス(1923年7月11日-2018年5月17日)は、20世紀を代表するロシア近現代史の権威であり、アメリカ合衆国の歴史学者です。ポーランド、シロンスク県チェシンに生まれた彼は、ナチスの迫害を逃れて1940年にアメリカに移住、1943年に帰化しました。

その後、マスキンガム大学を卒業、コーネル大学とハーバード大学大学院で研鑽を積み、ハーバード大学で歴史学の博士号を取得。1950年から1996年まで同大学で教鞭をとり、1968年から1973年にはロシア研究センター所長を務めました。彼の専門はロシア近現代史であり、その深い知識と洞察力は、世界中の研究者から高く評価されています。

パイプス教授は、単なる学究にとどまらず、冷戦期におけるアメリカ合衆国の対ソ連政策にも重要な役割を果たしました。1970年代、CIAのソ連分析に疑問を抱いたジョージ・ブッシュ長官(当時CIA長官)は、CIAの外に専門家からなる分析部隊「チームB」を設立し、パイプス教授をその座長に任命しました。チームBは、従来の分析とは異なる視点からソ連の脅威を評価し、その結果、ソ連の軍事力や国力を従来の見方よりもはるかに高く見積もる報告書を発表しました。この報告書は、当時大きな衝撃を与え、アメリカ合衆国の対ソ連政策に影響を与えたとされています。

レーガン政権時代には、国家安全保障会議(NSC)のソ連・東欧部長として、対ソ連政策に直接関与しました。その専門知識と鋭い分析力は、レーガン政権の対ソ連強硬姿勢の形成に貢献したと見られています。

学術面での貢献も計り知れません。彼は『レーニン主義の起源』、『ロシア革命』、『共産主義:消え去った亡霊』など、多くの著作を発表し、いずれもロシア革命史やソ連史研究において重要な参考文献となっています。これらの著作は、綿密な史料調査に基づいており、従来の解釈を覆す独自の視点や、鋭い分析で高い評価を得ています。その著作は、多言語に翻訳され、世界中の研究者や学生によって読まれています。彼の著作は、簡潔で明瞭な文章で書かれており、専門家だけでなく一般読者にも理解しやすいよう配慮されています。

彼の息子のダニエル・パイプスも中東史、イスラーム研究者として活躍しており、父子二代にわたって学術界に貢献しています。

2018年5月17日、マサチューセッツ州ケンブリッジの介護施設で94歳で亡くなりました。彼の死は、世界中の歴史学者や政治学者に深い悲しみをもたらしました。しかし、彼の残した膨大な研究成果は、今後も多くの研究者や学生に影響を与え続け、ロシア史研究の進歩に貢献し続けるでしょう。彼の功績は、今後長く語り継がれていくことでしょう。

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