リヒャルト・ミュールフェルト

リヒャルト・ミュールフェルト（Richard Mühlfeld, 1856年2月28日 - 1907年 6月1日）は、19世紀後半のドイツで活躍した、多才な音楽家です。同時代のドイツにおける最も名高いクラリネット奏者の一人として知られ、その影響力はグスタフ・イェナーやカール・ライネッケ、そして特にヨハネス・ブラームスといった作曲家たちが、彼の演奏に触発されて重要な室内楽曲を生み出すほどでした。ブラームスがミュールフェルトのために作曲したクラリネット三重奏曲、クラリネット五重奏曲、そしてクラリネット・ソナタといった作品群は、今日でも広く演奏される名作として愛されています。ミュールフェルトのキャリアはヴァイオリニストとして始まりましたが、後にクラリネットへと転向し、最終的には指揮者としても認められました。

生涯

幼少期と音楽教育

ミュールフェルトは、ザルツンゲンで都市楽師を務めていたレオンハルト・ミュールフェルトの四男として、音楽に囲まれた環境で育ちました。幼い頃からヴァイオリン、ピアノ、クラリネットといった楽器の早期教育を受けましたが、クラリネットは独学で習得したとされています。これは当時の標準的な例からは外れるものではありませんでした。また、地元の聖歌隊にも参加しています。

マイニンゲン宮廷楽団での活躍

1873年、ミュールフェルトはマイニンゲン公爵の宮廷楽団に入団しました。当初はセカンドヴァイオリン奏者でしたが、すぐにクラリネット奏者へと配置換えとなり、首席奏者の代役を頻繁に務めるようになりました。3年間の兵役期間中も、軍楽隊で首席クラリネット奏者を務め、冬の休暇を利用して宮廷楽団の活動に参加することも許されました。

1879年10月には、マイニンゲン宮廷楽団の正式な首席クラリネット奏者の地位を獲得しました。ミュールフェルトのキャリアにとって大きな転機となったのは、1880年にハンス・フォン・ビューローが楽団の音楽監督に就任したことです。ビューローによって楽団は飛躍的にレベルアップし、ザクセン＝マイニンゲン公国の枠を超えてその名声を確立しました。ミュールフェルトも楽団の一員として、ヨーロッパ各地への数多くの演奏旅行に参加し、広くその技量を披露しました。

私生活では、1881年にミンナ・ザイフェルトと結婚し、二人の子供をもうけました。音楽家としての功績も認められ、1883年にはザクセン＝マイニンゲン公ゲオルク2世から宮廷演奏家の称号を授与され、さらに1890年には宮廷楽長へと昇格しました。この頃から、彼はますますソリストとしての活動を活発に行うようになります。

バイロイトでの活動

1876年、ミュールフェルトはマイニンゲン宮廷楽団の同僚と共に、ハンス・リヒターの指揮の下、バイロイト音楽祭のこけら落とし公演であるワーグナーの「ニーベルングの指環」に出演しました。その後、1884年からは12年間にわたり、バイロイト祝祭管弦楽団の首席クラリネット奏者を務めました。バイロイトでは、ヘルマン・レヴィやフェリックス・モットル、リヒャルト・シュトラウスといった著名な指揮者たちと並んで、指揮者としても活動の幅を広げました。

晩年と記録

1904年頃から、ミュールフェルトは度々重い病気に悩まされるようになります。潜行性の腎機能不全が進行し、最終的には脳梗塞を引き起こした後、1907年 6月1日にマイニンゲンでその生涯を閉じました。彼の亡骸はマイニンゲン霊園に葬られています。

ミュールフェルトの兄で、マイニンゲンの音楽史研究家であったクリスティアン（1849-1932）が残した記録によると、リヒャルト・ミュールフェルトは31年間の活動期間中に、138ヶ所で合計645回の演奏会に出演したとされます。オーケストラ奏者としての活動の傍ら、マイニンゲン男声合唱団の指揮や、ピアノ教師としても後進の指導にあたるなど、多方面で音楽に貢献しました。

ブラームスとの親交

ヨハネス・ブラームスは、自身の《弦楽五重奏曲第2番》作品111を完成させた後、作曲活動からの引退を考えていました。しかし、1891年の夏、ミュールフェルトがウェーバーのクラリネット協奏曲第1番、モーツァルトのクラリネット五重奏曲、ルイ・シュポーアのクラリネット作品などを演奏するのを聴き、その卓越した演奏技巧と独特の音色に深い感銘を受けました。この出会いが、ブラームスに再び作曲への意欲を燃え立たせたのです。

ミュールフェルトとブラームスは急速に親しくなり、交流を深めていきます。ブラームスは親友クララ・シューマンに宛てた手紙の中で、ミュールフェルトの驚くべき演奏について熱心に書き送っています。また、ミュールフェルトとの友情に感謝の意を示すため、上質な銀のスプーンに銘を刻んで彼に贈ったというエピソードも残っています。

二人の音楽家としての協力関係は1881年からマイニンゲン宮廷楽団員として始まっていましたが、個人的な友情が深まったのは1891年以降のことでした。この友情から生まれたのが、ブラームスの後期の傑作とされる、ミュールフェルトのために作曲された《クラリネットとチェロ、ピアノのための三重奏曲イ短調》作品114と、《クラリネット五重奏曲ロ短調》作品115です。

これらの作品は、1891年 11月24日にマイニンゲンで非公開の初演を迎えました。《三重奏曲》ではブラームス自身がピアノを担当し、《五重奏曲》では著名なヨアヒム四重奏団が共演しました。同年12月12日にベルリン・ジングアカデミーで行われたこれらの公開初演により、ミュールフェルトの名は一躍国際的なものとなります。彼はその後、ウィーンやベルリン、ロンドンといった主要都市を毎年訪れ、精力的に演奏旅行を行いました。

1894年には、ブラームスは再びミュールフェルトのために、ヘ短調と変ホ長調の2つのクラリネット・ソナタを作曲しました。これらのソナタは、その年の夏にマイニンゲン公爵家の別荘があったベルヒテスガーデンで、作曲者自身とミュールフェルトによって初演されました。ブラームスとミュールフェルトは、1895年の初頭までに、この2曲のソナタを合計20回もの演奏会で披露しています。

ミュールフェルトとブラームスの出会いは、音楽史における特筆すべき出来事であり、彼の卓越した演奏技術と芸術的な感性が、ブラームスの後期創作の扉を開いたと言えるでしょう。ブラームス作品を通じて、ミュールフェルトの名は今日まで多くの音楽ファンに記憶されています。

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